Vol.4: ABC of Aero Dynamics (3)
(written on 28th.Nov.1997)
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 今回も前々回から引き続き、空気力学という分野について語っていきます。
 まずは前号までのおさらいから。

Summaries of previous issue

  1. ものすごいスピードでぶち当たる空気をいかに扱うかがF-1空気力学のテーマである。

  2. 空気抵抗を減らすということも勿論大事なことではあるが、それ以上にF-1では走行安定性のために空気を利用して「ダウンフォース」を得ることが空力の重要なテーマとなっている。

  3. ウィングとは上下の空気の圧力の差を利用して揚力/逆揚力を発生させる装置である。

  4. 現在のF-1ではフロントとリアにウィングを取り付けている。

  5. グランドエフェクトとは地面とある物体との間に起こる力学的な力のことである。F-1においては下方への力=ダウンフォースが発生して欲しい。

  6. ベンチュリーとは凸状の構造体が向き合ったものであり、( )( ←このように「かっこ閉じ」と「かっこ」が向かい合ったようなもの)その間を勢い良く空気などが通り抜けると、負圧が発生して構造体どうしを引き寄せる力が発生する。

  7. コーリン・チャップマンはベンチュリーをグランドエフェクトに応用し、マシン底面にベンチュリー構造体を形成して、そこに積極的に空気を取り込むことでダウンフォースを得ようとした。

  8. 「ベンチュリーカー」は本当は「ウィングカー」ではないっ!!

 ...ということで、前回までで、現在のF-1の空力では欠かせない「ベンチュリー効果」というものについて解説しましたね。

 今回はフラットボトム及びステップドボトム規制、また、その規制下におけるベンチュリー効果について語ってみます。

 前回お話ししたベンチュリーカーは、度重なる事故のために'82年を最後に禁止となってしまいました。
 細かいことは 本家のほうに任せるとして、具体的にはどう禁止されたかといいますと、フロントタイヤの後端からリヤタイヤの前端までのマシンの底は平らでなくてはならなくなったのです。これがフラットボトムです。

Ventury-Car
ベンチュリーカー

 ベンチュリーカーはマシンの底をベンチュリーに形成することでダウンフォースを得ていたのですから、マシンの底が平らになってはベンチュリーによる効果は得られないはずでした。
 ところが、F-1のデザイナー達はその規制の中でもベンチュリー効果を得る方法を編み出したのです。

 どのチームがいつ、どのような経緯でそれらを導入したのかは 本家に任せて、ここではその原理について語ります。
 前述のように、底が平らであるように規制されたのは前後のタイヤ間のみであり、それよりも前方、後方は対象外だったのです。この部分を使ってなんとかうまいことダウンフォースを得られないものか?

Flat-Bottom
フラットボトムとディフューザ

 そこでまず考えられたのが「ディフューザー」というものです。
 これは、フラットボトム規制外となるリヤタイヤ前端から後方に向かってマシンの底を跳ね上げたものだと思えば良いでしょう。

 フラットボトムであるマシンの底の下を流れてきた空気はこのディフューザー部で拡散(ディフューズ)され、圧力が下がります。すると、ただでさえ300km/hで流れ込んで来ていた空気はその部分の空気の圧力を戻そうと、ますます勢い良くディフューザー部分に流れ込もうとします。すると、フラットボトムの下を流れる空気が加速されることになり、これによりマシンの底面に負圧が発生してダウンフォースが発生するという仕組みです。
 これはまさに、ちょうどベンチュリーを半分に切ったような形をしていますよね。

 さらに、このディフューザー部分の上部に流速の速い空気を流してやることで、ディフューザーの空気を引き抜いてやり、ディフューザーの効果をさらに上げてやるというアイデアも登場して来ました。それが「コークボトルテール」です。

Coke-Bottle
コークボトルテール

 左の図のようにしてリヤタイヤ前方でサイドポンツーン(マシンの横の箱みたいなやつです)の後端部分をコーラの瓶のようにくびれさせることで、リヤタイヤにぶち当って圧力の高まった空気をディフューザーの上に押し込んでしまうわけです。で、この空気がディフューザーの空気を引き抜いてくれるというわけです。

 こうしてさらにディフューザーの効果を高めることが出来たわけですが、それでもまだベンチュリーの観点から見れば、後半の半分しか再現できてないわけですよね?では、前半部分はどうなのか?
 後ろに向かって跳ね上げることでベンチュリー後半部分を再現できるなら、前方に向かっても跳ね上げれば前半部分も再現できるんじゃないの?

 その通りです。それが「ハイノーズ」だったのです。

High-Nose
ハイノーズ

 マシンの前半部分を持ち上げることで空気を積極的にマシンの底面にたくさん押し込んでやり、それをディフューザーが拡散することでマシンの底面の流速がさらに増して大きなダウンフォースを得ようと。これこそが「ハイノーズ」の狙いだったわけです。

 どうですか?これでフラットボトムを挟んで前後が持ち上がったベンチュリーが完成したと思いませんか?

 こうして、ベンチュリーカー禁止によって失われたダウンフォースは復活し、フラットボトム晩年にはそれを超えるほどにまで達していました。
 そのため、マシンの底に関して、新たな規制を加えるレギュレーションの施行が論議され始めた頃、御存じのように、'94年、セナ、ラッツェンバーガーの死亡事故が発生してしまったというわけです。

Steped Bottom
ステップドボトム

 そして急遽繰り越して導入された規制こそ現在の「ステップドボトム規制」です。
 これはどういうことかというと、マシンを前方から見た中央部分の30cm〜50cm幅よりも左右部分の底を5cm上げなくてはならなくなったのです(図中黄線)。

 こうすることで車体と地面の間を広げるとともに、真ん中の出っ張った部分で乱気流を発生させてベンチュリー効果を薄くさせたわけです。

 この規制によってF-1のダウンフォースは一挙に半分近くに減ったと言いますから、効果は絶大だったわけですね。
 でも、ステップドボトムになっても、ハイノーズやディフューザーはまだ残っていて、少しでもベンチュリー効果を得ようとしています。

 どうでしょうか?これで「ディフューザー」と「ハイノーズ」の働きがわかったでしょうか?

Summaries of this issue

  1. 度重なるベンチュリーカーの事故により、マシン底を平らにしなければならないというフラットボトム規制ができた。

  2. ディフューザーはフラットボトム規制外のマシン後端部分の底を持ち上げてマシン底を流れる空気を拡散させ、負圧を発生させてダウンフォースを得ようという空力装置である。

  3. コークボトルテールはリヤタイヤにぶち当った圧力の高い空気をディフューザーの上面に流してその効果を高める働きがある。

  4. ハイノーズはマシンの底に積極的に空気を送り込んでベンチュリー効果をさらに高める働きがある。

  5. ディフューザーとハイノーズによってベンチュリーカー以上のダウンフォース(ベンチュりー効果)をフラットボトムで実現したが、現在はさらに厳しいステップドボトム規制に移行している。


 こんなところでしょうか?

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