Vol.3:
ABC of Aero Dynamics (2)
(written on 6th.Nov.1997) |
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今回も前回に引き続き、空気力学という分野について語っていきます。今回はさらに発展して「グランドエフェクト」について触れてみたいと思います。
現在のF-1はダウンフォースを得るのに、もはやウィングの力だけに頼っているのではなく、このグランドエフェクトを多用しているのです。
ますますサッパリわからん? |
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ウィングの原理 |
ではウィングとの相違から考えてみましょうか。
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しかし、グランドエフェクトとというのは、申し上げたように地面と物体との関係が重要になってきます。物体側の形状を工夫することで地面に対して特殊な関係になることで起こるある効果を「グランドエフェクト」というわけです。
そう、F-1とは飛行機と違って地面スレスレを走るマシンですから、空気とだけではなく、地面との関係も考えていかなくてはならないのです。そういった点で前回「F-1は航空分野よりも高度な空気力学である」と言ったわけです。
さて、こうした考え方以前のF-1マシンというのは極力マシン底面に空気を入れないのが常識でした。地面との間が数cmも開いていないF-1ですから、そこに空気が勢い良く大量に入り込めば空気の圧力が上がって揚力が発生してしまうと考えるのは当然ですし、そして実際にその通りでした。
ベンチュリーとは凸状の構造物が向かい合ったものです。
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ベンチュリーの原理 |
例えばこれを利用した霧吹きなんかはこの一番狭まる部分にホースをつなげ、ベンチュリーに息を吹き込むと負圧によって水を吸い出して噴射しているわけです。エンジンの気化器(キャブレター)なんかもベンチュリーを利用しています(左図)。
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ロータス78 |
で、チャップマンはこれをグランドエフェクトに応用してしまったのです。つまり、凸状の構造物の片方をマシン、片方を地面に見立ててしまったんです。 |
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地面は平らですから凸状ではありませんが、マシンの底面側だけでもベンチュリーを形成し、そこに200〜300km/hで大量の空気が流入すれば十分に負圧が発生するのではないか? |
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ロータス79 |
こうしてマシンの底面にベンチュリーを形成した「ベンチュリーカー」ロータス78は、当初こそベンチュリーの発生するダウンフォースのバランスなどに苦しみましたが、やがて本来のポテンシャルを発揮し、後継機種である79になってその力を爆発し、圧倒的な強さで'78年のチャンピオンを獲得してしまったのです。 |
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ベンチュリー以前にも、グランドエフェクトにうすうす気付き、それを利用しようとした者もいました( "U-N-C-H-I-K-U"第五回参照)。しかし、それはマシンの下の空気を徹底的に排除し、一種の真空状態を作ることで負圧を作っていた点では消極的でした。対して、ベンチュリーカーでは積極的に空気を底面に送り込んで最大限に利用してやろうとした点でより進んでいました。
さらにウィングと比較した利点として大きかったのは、ベンチュリーは地面に対する面だけが凸状に滑らかに形成されていれば良く、反対面は関係がなかったことです。つまり、上面はコクピットなどを形成しつつもその底面全体でダウンフォースを稼ぐことができた点で、非常に有効でした(確かに上のロータス79でも上面は全く翼断面を考慮していないことが分かる)。
そう、これは
"U-N-C-H-I-K-U"のほうでもしつこく言ってきましたが、「ベンチュリーカー」を良く「ウィングカー」と呼んだりします。たしかにベンチュリーの断面は翼断面に良く似ています。しかしながら、その底面に取り付けられた構造体は「ウィング」ではなく、紛れもなく「ベンチュリー」だったのです。
といったところでしょうか?
しかしながら現在のF-1ではマシンの底面に関しては非常に厳しい規制が施されており、直接ベンチュリーを構成するのは不可能になっています。
ということで次回はそのあたりについて触れるとともに、前回のコラムを読んで質問を送って下さった方々への解答などもできたらいいなと思っています。 |
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