Vol.12: "Is X-wing useful?"
(written on 9th.May.1998)
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 今回は、ちょうどタイミング良く質問のあったX-ウィングについてです。

 '98年に入って大流行りした、あの奇抜なウィング。「なんのためにあんなもの付けているの?」という疑問をお持ちの方も多いでしょう。

 その意義や効果、ついでに、ウィングの基礎などについても軽く触れていく事にします。


 X-ウィングについては、Terryさんと、いすゞNAVi5の話題を提供して下さった海老沼茂さんから質問をいただきました。

 海老沼さんの文はちょっと過激なので (^^;;;;;;;;;;;;、今回はTerryさんの質問を引用させていただきますね。

「今年に入ってXウイングというのが、目に付くのですが、あれによる効果は何が期待できるのですか?」

 なるほど。
 もう、F-1マシンのトレンドの最先端な質問ですね (^^;。

 まず、空力っていうものの簡単な解説から入りますね。

 F-1っていうのは、実は市販車の半分よりももっと軽いんですね。ドライバー含めても600kgなんです。
 ところが、エンジンのパワーは800馬力で、市販車の数倍のパワーがあるんです。

 で、そんなに軽いのにパワーがものすごいと、タイヤが一生懸命回転しても、車体そのものが浮き上がってしまって空転し、せっかくのパワーを路面に伝える事ができないわけです。

 かといって、しっかりとタイヤを地面に押さえ付けるためにマシンを重くしてしまうと、鈍重になってしまい、また、エンジンパワーも無駄になってしまいます。
 重いという事は、レーシングマシンにとっては致命的なことです。

Wing
ウィングの原理

 そこで発明されたのがウィングだったんですね。

 ウィングは空気の流れをコントロールして、空気力学的な力を発生させます。飛行機の場合は上方向の力(楊力)、F-1の場合は下方向の力(ダウンフォース)が発生します(図参照)。
 これによって飛行機は空へと舞い上がり、F-1は地面にぴったり張り付いて安定してコーナーを曲がる事ができるんです。

 つまり、マシンそのものの重さは非常に軽いままで、安定して走る事ができるようになってしまったわけです。これは大発明です!

 さらに、今のF-1マシンはもっと進んでいて、マシンの底の部分の形状でもダウンフォースが得られるように設計されています。

 今のF-1は空気抵抗を無くす事よりも、むしろダウンフォースを獲得する事のほうが重要な空力の研究課題になっています。
 この辺の詳しい事は バックナンバー第二回"U-N-C-H-I-K-U"第一回などをご覧になって下さいね。

 で、ようやくX-ウィングの話に入ります。

 X-ウィングも普通(フロント/リヤ)のウィングと同様、やはりダウンフォースを獲得する目的です。

 ところが、普通ウィングというものは、縦の長さに対して横の長さが長い方が効率が良いとされています。(これを、アスペクト比が高いと言います)
 つまり、そのウィングで発生する空気抵抗に対して、得られるダウンフォースの量が大きいと言う事ですね。

 しかし、X-ウィングを見てみると、前後のウィングに比べてはるかに縦長ですよね。つまり、効率がかなり悪いという事です。

 また、サイドポンツーンのど真ん中にあんなフェンスのようなものを立ててしまっては、大きな空気抵抗になってしまいます。

 効率が悪く、しかも、それを支える支柱までが大きな空気抵抗を発生している。こう聞くと悪い事だらけですよね。
 ですから、十分なダウンフォースが他で得られている、もしくは、サスペンションなどの足周りの性能がしっかりしているならば、X-ウィングはつけないに超した事はありません。

 しかし、'94年のセナの事故の後の規則変更でウィングやマシンの底に関する規則が大幅に厳しくなり、ダウンフォースの量は大幅に減りました。
 さらに、今年はグルーブドタイヤが導入され、タイヤそのもののグリップ力が減ってしまったんです。

Tyrell025
ティレル025のXウィング

 そこで'98年、てっとり早くダウンフォースを獲得する手段として、'97年からティレルが導入していたX-ウィング(左の写真)が大はやりしたわけです。
 つまり、多少の空気抵抗よりも、より大きなダウンフォースを得て、安定してコーナーを曲がれるようにしよう、というわけですね。

 で、ダウンフォースが必要だってことはわかった。でもそもそも、なんであんな奇抜な位置になったのか?そんな疑問が涌くかと思います。

 実は、今のF-1のマシンの各部は、非常に細かく寸法が規制されています。
 で、X-ウィングが立っているサイドポンツーン付近にもこれらの規則はちゃんとあって、

「インダクションポット最前端より25cmのところから後輪車軸の後方15cmまでの間の高さ50cm以下の部分では空力付加物の装着を禁止する」

となっています。
(もー、わけわかりませんね <(-"-)>)

 ま、細かい数字はいいとして、よーするにそういった厳しい規則を縫って、サイドポンツーン上になんとかウィングを立てようとすると、X-ウィングのような位置になってしまうんですね。

 元祖のティレルはともかくとして、後からX-ウィングをつける事になったプロストやフェラーリは、あの支柱が給油時に邪魔になるようで、片方だけ外したり、支柱の板の形状を変えたりしていますね。ちょっと中途半端さは否めませんね。

SauberC17
X-ウィングの片方が取れたまま
4位を走行するアレジのザウバー
('98年アルゼンチンGP)

 そもそも、その効果と言うのも、片側が外れてしまったアレジがアルゼンチンで4位入賞したところなどを見ると、それ自体の効果はさほど大きくないと思えます。
 そんな小さな効果のものでも付けたくなるほど、今のF-1にダウンフォースが不足している、とも言えますし、むしろ細かいセッティングをしやすくする意義の方が強いのかもしれません。

「もっとも、『禁止』通達が出たとか書いてありましたね。」

 どうも、まずFIA会長のマックス・モズレーが「あのウィングは醜いので禁止したい」と言ったらしいですね。
 まあ、その意見には僕個人は賛成なのですが (^^;、それでは説得力に欠けるので、「安全性のため」というもっともらしい理由で禁止されるようです。

 ...う〜〜〜ん、なんだか釈然としませんよね。いかにも後から理由をつけたようで。本当にFIAは安全性云々を考えているんでしょうか?
 なんだか会長の美的な好みだけで規則を決めてしまったかのように受け取られてもしょうがないですよね。

 ティレルでX-ウィングを導入したマイク・ガスコインも言っていますが、あのウィングが危険だと言うならば、ドライバーの頭の上の2kgもの重さの車載カメラのほうがよっぽど危険です。かなりチグハグですよね。

 開幕戦のインタビューでFIA会長のマックス・モズレーは

「スポーツマンシップに則って勝ち得たアドバンテージを奪い去るようなことはFIAはしない」

と言っていたものの、その後、マクラーレンらのブレーキステア、そして今度のX-ウィングの禁止...。
 う〜〜〜〜む。

 まあ、X-ウィングは結局、妥協から生まれたものだと言えます。なくて済むなら、ないほうがいいわけですから。それが禁止されると言う事は、よりマシンそのものの基本的な性能が試される事になりますね。

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