Vol.1: The Begining of Wing
(written on 11.May.1997, corrected on 28.Sep.1998)
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 F-1グランプリレースとは、直線とコーナーの入り乱れたサーキットで、車の極限の運動性能を競うものです。ただ単純に直線が速いだけで良いドラッグレースなどとの大きな違いがそこにあるわけです。エンジン性能だけではなく、車全体の性能を強く要求されるために、F-1は自動車最高峰のレースと言われ続けているのです。

 さて、直線はただ単純にエンジンのパワーを増していけば速くなっていきます。もちろん、ある速度以上になるとマシンには空気力学的な力で上へ向かう力(揚力)が発生し、タイヤが空転する事も考えられますが、それ以上の問題があります。
 問題はコーナーです。コーナーでは速度の2乗に比例した遠心力によってマシンには横方向の力がかかります。すると、ある一定以上の速度になると、タイヤのグリップが耐えられなくなって、マシンは横に吹っ飛ぶことになってしまうのです。

 ...となると、より速くコーナーを走るためには、その遠心力よりも強い力でマシンを押さえ付ける必要があります。

 一番単純な方法としては、マシンを重くすることです。一般に、社長さんや政治家さん達が乗るような高級車は、重い車体にパワーのあるエンジンを積んで、どっしりと安定した走りを実現させています。
 しかし、敏捷性が命のレーシングマシンでは、重くなることは命取りです。それに重くなっては、直線のスピードも落ちてしまいます。

   そこでマシンの重量をそのままに、タイヤにかかる力だけを大きくする方法が考え出されました。
 それが、これまで抵抗に感じる対象に過ぎなかった空気の流れを利用する方法...つまり、「翼」〜ウィングだったのです。
wing
横から見たウィングの回りの
空気の流れ
 ウィングは横から見ると、その上下で空気の流れる部分の距離が違います。
 よって片方を通る空気はもう一方よりも早く流れることになり、ここにウィングの上下で空気の圧力の差が発生し、空気の流れが速い、つまり圧力の低い方に向かってウィングを寄せていく力が発生します。
 つまり、上に凸のウィングなら上に向かう力、揚力が発生し、下に凸ならば逆揚力、ダウンフォースが発生するというわけです。

 1960年代半ば頃までのF-1マシンの空力研究というのはいかに空気抵抗を減らすか、のみに注がれていました。

 皆さんも葉巻型をした昔のF-1の写真を一度や二度見たこともあるでしょう。第一期ホンダ参戦の時のマシンもちょうどこの時代でしたから、葉巻型をしていました。葉巻型をしたボディはいかにも空気抵抗が少なそうに見えますね。
 まあ、単体で飛べば葉巻型は抵抗が少ないでしょうが、実際にはF-1はタイヤをつけていますから、必ずしも抵抗が小さかったわけではありません。この事に関してはまたの機会に)。
 しかし、1968年を境に、「いかにダウンフォースを確保するか」が空力の再重要事項となったのです。

Ferrari312
F-1で初めてウィングを装着した
フェラーリ312
 F-1において初めてウィングを取り付けたのは68年ベルギーGPでのフェラーリ312でした(左の写真)。
 これは、サイズも随分と小さく、ロールバーの後ろに申し訳程度に取り付けられたものでしたが(95年のマクラーレンMP4/10のセンターウィングにも似た位置ですねぇ)、油圧で迎角が変化するという先進的なものでした。
 ウィングを付けたフェラーリ312の走りはさほど目を見張るほどのものではなかったようですが、それにロータスの創始者であり、チーフデザイナーでもあったコーリン・チャップマンが目をつけ、リヤにはアップライトからステイを延ばしたハイマウントのウィングを、フロントノーズの側面にもウィングを取り付けて登場してきました。しかも、それによるコーナーリングスピードの向上が見られたのです。
high-mount-wings
ハイマウントウィングを装着した
F-1マシン群
 そして瞬く間に他チームにも広まり(もちろんホンダチームも取り付けてきました)、F-1グランプリのグリッドではまるで共同住宅の洗濯もののようなハイマウントのウィングの列が見られるようになったのです。
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