Vol.13: Upper exhaust system & Aerodynamics of helmet
(written on 2nd.Jun.1998)
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 今回は、スペインGPから投入されたフェラーリの上面排気と、ヘルメットの空力に関して質問をいただいたので、それについてのインチキ解説をしてまいります (^^;。


 さて、まずフェラーリの上面排気システム。

 これは毎回毎回感想を欠かさず送って下さる(感謝です!)悪魔のZ3さんからの依頼?です。どうも御依頼ありがとうございます (^^;。

 では、なぜ上につけることになったのか?を話す前に、まず、もともとエキゾーストはどこに出ていたのか?

 まあ、それは良くリタイヤシーンなどで煙吹いてるからわかると思いますが、マシンの最後端の底の方から排気をしていたわけですね。

 ところが、今年からレギュレーションが若干変わりまして、このエキゾーストパイプは車体中心30cmを除き、リヤ車軸より後方には延ばせなくなってしまったんです。

 ところがところが、車軸のところでエキゾーストパイプを切っちゃうと、リヤサスペンションアームに排気の熱気が直接当たり、また、車体中心の30cmで後方まで延ばすと、今度はリヤウィングの支柱に熱気が当ってしまい、サスアームやウィングの支柱がオーバーヒートを起こして折れてしまうというようなトラブルが発生してしまったわけです。

 だから狭い空間に排気するボトム部分ではなく、上方排気にした。
 まあ、これも大きな理由のひとつです。

 しかし、実はもうひとつ大きな理由があるんです。それは空力的な理由になりますね。

 現在のF-1はマシン後端の底の部分に、後ろに向かって坂のように広がっていく構造物、「ディフューザ」をつけることで、マシンの底の空気の流れをコントロールしてマシンの底の部分全体でダウンフォースを得ています。("U-N-C-H-I-K-U"参照)

McLarenMP4/2
ディフューザ内に排気したマクラーレンMP4/2

 で、'84年にバーナードが製作したマクラーレンMP4/2は、そのディフューザ内に排気をしていました。排気ガスの衝撃波によってディフューザ内の空気を加速させてより大きな効果を得ようという狙いです。

 ところが、それから10数年経ってより空力が洗練されるにつれ、今度は、アクセルのオン/オフ、つまり、排気ガスが出る時と出ない時とで空力特性が変わるほどF-1の空力が敏感になってしまいました。

 そこで、最近のF-1マシンはディフューザ内部ではなく、ディフューザの上から排気をするのが主流になっていたのですが、それでも、やはり多少の影響は受けてしまっていました。

FerrariF300
フェラーリF300の上面排気システム

 そこで上面排気です。

 もはや、マシン後端底部分において、邪魔モノにしかなっていなかった排気を、この際排除して、上から出しちゃえ!

 これによってディフューザは安定した空力効果を発生し、(スペインGPのテレビ放送で今宮さんが「一発の速さではなく、安定した走行のため」と言っていたのは、このことです。)そして、リヤサスペンションやウィングの支柱にも悪影響を与えない。

 まさに一石二鳥ってやつですね!良く考えたものだと思います。

 だから、このシステムを導入したところで、フェラーリが速くならなかったのはこのためです。速さよりも、安定性や信頼性、ドライバビリティを上げるための改善だったわけですからね。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 お次はF.N.Gさんからの御依頼 (^^;のヘルメットの空力についてです。F.N.Gさんも、御依頼ありがとうございますぅ。

Irvine
アーバインのヘルメット

「ダウンフォースに関係あるかどうか解らないのですが、ドライバーのヘルメットの形状の違いによる効果は何かあるのでしょうか?
 ドライバーの好みにもよるのでしょうが、アーバインのヘルメットの形を見ると何か効果がありそうな感じです。」

 そうですね。確かに、各ヘルメットメーカーは、少しでも空力効果が良くなるように研究しています。

 でも、軽さやかぶり心地はともかく、形の好みでドライバーが決めているということはないと思います (^^;。

「CARTのドライバーのヘルメットも結構かっこ良いです。
 でも、もしヘルメットでダウンフォースがついたらドライバーの首,背骨に負荷がかかりそうですが?」

 確かにF-1の空力の最優先課題はダウンフォースだとは言いましたが、さすがにドライバーのヘルメットでマシンの安定性のためのダウンフォースを得る事は恐らくどのメーカーも考えていないはずです。

 ダウンフォースは高速になればなるほど、非常に強力になります。それを受け止めるためには、かなり強力な支柱が必要です。

 プロストのX-ウィングなどは、その支柱の強度が足りていないらしく、グラグラしていたという話もあります。

 そんな状態では、安定したダウンフォースは得られません。

 で、ドライバーの頭というのは、全く固定されているわけじゃないですよね。空力的な側面から言っても、ドライバーの頭でダウンフォースを得る事は非常に難しいと言えると思います。

 もちろん、それ以上に、F.N.Gさんのおっしゃる通り、ドライバーに負担になるから、というのもあるでしょうが。

 ただ逆に、マシンの安定性のためのダウンフォースではなく、その安定しないドライバーの頭を安定させるための微量のダウンフォースを発生させることは考えられているようで、横にあるフィンなどは、そのための空力的部品のようです。

 それから、F-1の場合、ドライバーの頭の上にある、インダクションポット(エンジンの吸気)への空気を極力乱さないこともヘルメットとして求められる重要な空力性能です。

 特に、'96年にドライバーのプロテクターが義務付けられてから、エンジンへの吸気の整流と言う事がものすごく注目されるようになりました。今では、どのチームもインダクションポットが、ティーポットの口のように飛び出していますよね(上の写真参照)。

 で、マシン側だけでなくて、ヘルメットのほうも、以前からいろいろ試されてはいたんですが、この'96年になって、一挙にいろいろな工夫が見られるようになりましたね。

 一番目立ったのがシューマッハ兄。
 後ろ側が真直ぐの絶壁になってましたね。(横から見ると四角く見える感じです。下の写真参照)

 とにかく、この年のフェラーリのプロテクターは巨大で、少しでも吸気効率を良くしようと、そんなヘルメットを被って、ストレートで首を傾けて必死でドライブしていた姿は覚えてらっしゃるかと思います。

FerrariF310
巨大なプロテクターを持つフェラーリF310と
シューマッハの被っていたヘルメット

 で、その翌年はマシンが大きく変わって、プロテクターもものすごく低くなりました。それに合わせて、シューマッハも、丸いヘルメットに戻しました。

 マシンに合わせてヘルメットも変えるくらい、最近のF-1の技術っていうのは洗練されているんですね。

「単車のヘルメットは転倒しライダーが転がったときのためにメットの形状に制約があると記憶していたのですが、カーレースの場合は関係ないみたいですね。 」

 形状に関してはないようですが、強度に関しては、非常に厳しい規格が設けられています。(スネル規格と言って、'56年にレース中の事故から脳障害に陥って亡くなってしまったビート・スネルというレーサーの名前からとっているそうです。)

 それに通らなければF-1では使えないわけで、そのためには、あまりイッちゃってる形状にはできないでしょうね (^^;。


 いかがでしたでしょうか。

 質問を送って下さったお二方、本当にどうもありがとうございました。

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