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2000 Round.16
Japanese
8th.Oct.2000

Japan
Suzuka
Suzuka



1. 日本GP コースレビュー & ヒストリー

* * * モータースポーツ後進国、日本。 * * *

 先日のU.S.GPが開催されたインディアナポリスが1911年に完成していたのとは対照的に、日本で初めての本格的サーキットが完成したのは半世紀以上遅れて1962年の鈴鹿まで待たなくてはならなかった。
 モータースポーツが日常に根付いた欧州や米国と違い、日本でのそれは特殊な存在だった。それどころか、暴走族を増長させるものとして、煙たがれる存在ですらあったのだ。


* * * わずか二度に終わった富士でのF-1 * * *

 しかし、'63年に始まり、トヨタや日産が壮絶な争いを繰り広げた日本グランプリや、富士スピードウェイで開催されたグランチャンピオンシリーズが人気を博し、日本でのモータースポーツも隆盛を見せるようになった。そして'76年、このシーズンの最終戦として富士が組み込まれることになったのだ。

 その'76年のレースは大雨の中のレースになり、ジェームス・ハントが大逆転でチャンピオンを獲得するという劇的な舞台となった。これについてはバックナンバーのヨーロッパグランプリの記事を参照されたい。

 しかし、続く'77年のレース。
 残り2戦を残してチャンピオンを獲得してフェラーリを去ったラウダの代役として抜てきされたルーキー、ジル・ヴィルヌーブのフェラーリ312T2がロニー・ペテルソンのティレルP34のリヤに激突して宙を舞い、立ち入り禁止区域に入り込んでいた観客の上に落ち、その命を奪った(ジルは無事だった)。

 この事故は「モータースポーツは危険なもの」として世論の批判の格好の的となった。そして翌年以降も予定されていた富士でのF-1はキャンセルされ、10年ものブランクが空くことになったのだ。


* * * 日本で根付きつつあるモータースポーツ * * *

 そして'87年、舞台を鈴鹿に移し、再びF-1は日本に戻ってくる。
 ホンダエンジンの大活躍、バブル経済による日本企業の進出、日本人ドライバーのフル参戦などの要素から、F-1は大ブームを迎えることとなる。
 そんな熱狂の中、鈴鹿はチャンピオンが決定する天王山としての役割を果たしてきた。'99年までの13年間で8回ものチャンピオン誕生の瞬間を演出してきたのだ。

 だが、その間に日本でのF-1を取り巻く環境は大きく変化した。
 バブルの崩壊。ホンダエンジンの撤退。人気を博した中嶋悟の引退とアイルトン・セナの夭折...。こうした出来事を経て、再び日本でのモータースポーツはマイノリティなものに逆戻りした感がある。
 しかしそれでも毎年の鈴鹿のF-1には10万を超えるモータースポーツファンが詰め掛ける。決して日本でのF-1が死んだわけではないのだ。静かに、静かにそれは根付きつつあるのだと思いたい。


* * * 世界屈指の難コース、鈴鹿 * * *

 劇的なチャンピオン決定の場を演出してきた鈴鹿。それは現在、立体交差を持つ唯一のF-1サーキットである。また、左右コーナーのRをそれぞれ足していくと同じになるという珍しい特徴も持っている。

 そのコースは前半(東コース)と後半(西コース)とで性格が大きく異なる。
 前半はS字や逆バンク、デグナーなど、ドライバーの技量やマシンの運動性能を求められるテクニカルセクションであるのに対し、ヘアピンを抜けた後の後半はバックストレートや、高速の130Rを含む、エンジンパワーやドライバーの度胸を求められる高速セクションとなっている。

 そのため、チームはどちらのセクションよりにマシンを合わせるかで高い次元での妥協を求められる。
 昨年、東コースのみで行われたF-Dでゲスト参加ながら独走した福田良が、今年、F-1の前座のフルコースでのF-Dでは一転して苦心したのは、その難しい鈴鹿の特徴を物語っていると言えよう。


2.レース・レビュー

* * * 予選 〜 高次元なタイムアタック争い * * *

 この2000年シーズンの天王山となった鈴鹿。
 フリー走行一日目はシューマッハが先行する展開であったが、予選前のフリー走行ではハッキネンがトップを奪うなど、一歩も譲らずに予選を迎えることとなる。

 そしてその予選もまた、二人が壮絶なポールポジション争いを見せる。最初のアタックから1分36秒フラット付近での百分の一秒単位でのタイムの削りあいが見られたのだ。
 当初はシューマッハは第1, 3セクターが速く、ハッキネンは第2セクターで速い、という展開が見られたが、その後のマシンセッティングにより、時にはその関係が逆転することもあった。だが、それでも一周のタイムでは百分の一秒単位という実にハイレベルな戦いであった。
 最後は、両者とも35秒代という、コースレコードにも迫る高次元のタイムに突入し、0.009秒差でシューマッハが3年連続のポールポジションを獲得した。

 トップ2チームの後ろにはウィリアムズ勢が続いた。バランスの良いシャシーを武器にフリー走行から好調だった二台。特にルーキーのバトンはこの難しい鈴鹿を金曜のうちに攻略し、走り慣れたラルフより上、5番グリッドを獲得してしまった。


* * * 前半戦 〜 別次元のトップ争い * * *

 迎えた決勝。
 鈴鹿の空はわずかに小雨がぱらつく微妙なコンディションからスタートすることになった。だが、まだ路面コンディションが大きく変化するほどの雨ではない。一体いつ本降りになるのか、というのがスタート前の最大の関心事であった。

 ところが、スタート直前に衝撃が走る。2番グリッド、ハッキネンのリヤから白煙が上がっていたのだ。慌てるメルセデススタッフ。
 しかし、容赦なくスタート手続きは進行していく。


 さあ、スタートだ。

start 1st corner

 白煙の不安もどこ吹く風で、ハッキネンが抜群のダッシュを見せる。加速の鈍ったシューマッハの横を駆け抜け、トップで1コーナーに飛び込んでいく。過去2年と全く同じ展開だ。

 スタートでうまく出たのはアーバインも同じであった。バリッケロやバトンの前に、5位に躍り出た。鈴鹿を得意とする彼だけに期待がかかったが、レースが進むにつれて徐々に入賞圏内から脱落していくことになる。今のジャガーではこれが精一杯のようだ。



Mika vs Schumi


 さて、予選と同様に、タイトル争いの二台は3位クルサード以下を全く寄せつけないハイペースでのトップ争いを繰り広げていく。だが、決勝セッティングはハッキネンの方が決まっているらしく、わずかずつ差が開いていく。
 一回目のピットインはハッキネンが先に入り、一周遅れてシューマッハが入ったが、この局面でペースを上げたハッキネンが順位を守った。



 この天王山の前半戦は、静かに、しかし張り詰めた雰囲気で推移していった。


* * * 中盤戦 〜 強まってきた雨足...そして分かれた判断 * * *


Jacques!


 さて、ホンダにとって久々の地元グランプリ。中盤戦からジャック・ヴィルヌーブが気合いの走りを披露する。シケインで、ハーバート、アーバインの二台のジャガーを立て続けにパスし、スタンドを大いに沸かせた。
 これで彼は入賞一歩手前の7番手まで上がってきた。




 一方、トップ争いは引き続きハッキネン優勢で進んでいく。ファステストラップを叩き出して徐々に徐々にシューマッハを引き離していく。昨年を思い起こさせる展開だ。

 ところが、ついに雨が来た。完全レインとはならずとも、少しずつ路面にも影響を与えはじめるほど、雨足が強くなってきたのだ。
 加えて、トップ争いの前には周回遅れが現れはじめていた。この微妙なコンディションの中、ラインを大きく外してそれらを抜くのは危険性も孕む。今年、何度もこのような場面で弱さを見せたハッキネンのペースが落ちる。シューマッハとの差がいきなり縮まってきた。スタンドがざわめく。

 さらに、ハッキネンの前にジャガーの2台が周回遅れとして現れる。ここぞとばかりにハッキネンはピットに飛び込み、二度目のタイヤ交換と給油を行った。
 フェラーリも急ぎ、ピットインの準備を進めた。が、すぐにそれは引っ込められた。ここで入っても前には出られない。シューマッハは状況を冷静に判断し、ピットインをできる限り後ろに延ばすことに賭けたのだ!

 さあ、どちらの判断が正しかったのか?


* * * 終盤戦 〜 ついに逆転したシューマッハ、栄光の時 * * *

 5番グリッドから初表彰台を期待されたバトンだったが、スタートで7位まで順位を落としていた。しかし、堂々としたレース展開を見せた彼は2度目のピットストップを遅らせてチームメートの前に出ると、終盤にスピンして脱落したラルフを尻目に、見事に5位入賞を果たした。表彰台はならなかったが、素晴らしい才能を見せつけた。


 さあ、トップに目を戻そう。
 ハッキネンの思惑とは逆に、シューマッハは周回遅れを早々にかわし、暖まりきったタイヤと軽いマシンで飛ばしに飛ばした。
 一方ハッキネンにとって最大の誤算だったのは、雨で路面温度が低くなっており、ニュータイヤが性能を発揮するまで時間がかかってしまったのだ。燃料を給油して車重も重く、ペースを上げることができなかったのである。

 ハッキネンよりも3周延ばし、満を持してシューマッハがついにピットイン。短いピット作業。コースに戻ると、まだハッキネンは最終コーナーにいた。
 大逆転である!

 残り13周。ハッキネンが必死の追い上げを開始する。だが、路面は依然として不安定なコンディションな上、周回遅れも多く、なかなか差は縮まっていかない。シューマッハも必死のラップを叩き出して逃げる。



Finish!!

Podeum


 15万もの大観衆。シューマッハのファンである者も、そうでない者も、彼がここ数年捧げてきた努力というものを良く分かっていた。そして、彼とハッキネンがいかに高次元の戦いを繰り広げてきたのかということも。この先訪れる瞬間がどういう意味を持つのか、誰もが良く理解していた。サーキットは素晴らしい雰囲気に包まれていた。フィナーレの舞台は整った...。

 鳴り響くチアホーン、たなびく色とりどりの旗、そして、暖かい拍手。誰もが勝者を祝福した。勝者の名は、ミハエル・シューマッハ。逆転で優勝を手にした彼は、21年ぶりとなるフェラーリのドライバーズタイトルを決定させた。



 2位ハッキネンは全力を出して破れた。3位は淡々と走ったクルサード。4位にバリッケロが入ったことでフェラーリはコンストラクターズチャンピオンを決定的なものにし、地元ホンダのジャックも、終盤のラルフの脱落から、6位に入賞した。

 素晴らしいレースが、幕を閉じた。


3.NOBILES Eye

* * * クリーンな決着を見たタイトル争い * * *

 ついに決定したドライバーズチャンピオン。争う二人が別次元の接近戦の末、勝ったものがタイトルを決定したこのレースは非常に感動的で、誰もが素直に拍手を送らざるを得ない展開だったと言える。今年シューマッハが見せた強いレース、速さは、まさにこの2000年シーズンの頂点に立つに相応しい。

 ゴール後のシューマッハの表情はこれまでに見せたことのない、心の底からの喜びを噛み締めるようなものだった。勝利のために全てを捧げてきた男が、それを勝ち取った時に見せた真実の表情だと言えよう。
 モンツァの優勝後の記者会見での涙を「計算尽くで流した涙だ」などと言う人たちは、今回の彼の表情を見てもまだ同じことを言うのであろうか?
 今回のレースを見て、ビジネスや政治、マネーに溺れたF-1にも、スポーツの感動やロマンというものが依然として色濃く残っていることを、私は再認識した次第だ。

 敗れたハッキネンはこう言った。「グッドウィナー、グッドルーザー」。苦しい状況でもコツコツとポイントを積み重ね、夏の快進撃を見せたハッキネンも素晴らしい戦いを見せたことを認めなければならない。

 そして彼が言うように、この素晴らしいバトルはこれからも続いていく。
 最終戦マレーシア。依然コンストラクターズタイトルが残されているとは言え、ドライバーズのタイトル争いから解き放たれた二人がどのようなバトルを繰り広げるのだろうか?




Result
1 M.Schumacher Ferrari 1h29'53"435
2 M.Hakkinen McLaren Mercedes +00'01"837
3 D.Coulthard McLaren Mercedes +01'09"914
4 R.Barrichello Ferrari +01'19"190
5 J.Button Williams BMW +01'25"694
6 J.Villeneuve BAR Honda -1lap
7 J.Herbert Jaguar -1lap
8 E.Irvine Jaguar -1lap
9 R.Zonta BAR Honda -1lap
10 M.Salo Sauber Petronas -1lap
11 P.Diniz Sauber Petronas -1lap
12 P.De La Rosa Arrows Supertec -1lap
13 J.Trulli Jordan Mugen-Honda -1lap
14 G.Fisichella Benetton Playlife -1lap
15 G.Mazzacane Minardi Fondmetal -2laps
- DNF -

M.Gene Minardi Fondmetal -7laps (Engine)

R.Schumacher Williams BMW -12laps (Spin Out)

N.Heidfeld Prost Peugeot -12laps (Suspension)

A.Wurz Benetton Playlife -16laps (Spin Out)

H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda -16laps (Hydraulic)

J.Alesi Prost Peugeot -34laps (Engine)

J.Verstappen Arrows Supertec -44laps (Electrical)

Fastest Lap : M.Hakkinen (McLaren Mercedes) 01'39"189

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 98 1 Ferrari 156
2 M.Hakkinen 86 2 McLaren Mercedes 143
3 D.Coulthard 67 3 Williams BMW 36
4 R.Barrichello 58 4 Benetton Playlife 20
5 R.Schumacher 24 5 BAR Honda 18
6 G.Fisichella 18 6 Jordan Mugen-Honda 17
7 J.Villeneuve 15 7 Arrows Supertec 7
8 J.Button 12 8 Sauber Petronas 6
9 H-H. Frentzen 11 9 Jaguar 3
10 J.Trulli 6
11 M.Salo 6
12 J.Verstappen 5
13 E.Irvine 3
14 R.Zonta 3
15 A.Wurz 2
16 P.De La Rosa 2


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