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2000 Round.17
Malaysian
22th.Oct.2000

Malaysia
Sepan
Sepan



1. マレーシアGP コースレビュー & ヒストリー

* * * さまざまな顔を持つ他民族国家マレーシア * * *

 マハティール首相のもと、2020年に先進国の仲間入りを目指し、目覚ましい経済成長を見せるマレーシア。最近のアジア不況の影響を受けつつも、依然として活気に満ちた国であることになんらの変わりはない。

 マレーシアはマレー系、インド系、中国系、先住民系と多くの民族が暮らし、ポルトガルやイギリスとの関係も深かったために、近年建設された先進的な高層ビル街の一方で、中国的な町並み、伝統的イスラム建築、イギリス植民地時代のヨーロッパ風の建築など、さまざまな顔を持つ。
 また、熱帯性気候で一年中夏の気候を持ち、年中カラフルな果物が店先に並ぶ。市内の近代都市から少し離れれば、豊かな自然も残されている。

 経済成長し続ける市街の活気と、熱帯ゆえの美しい自然、そして多種多様な表情をもつマレーシアは、多くの魅力に満ちあふれた国だと言えよう。


* * * 思惑が一致したマレーシアGP開催 * * *

 そんなマレーシアが世界中に自らをアピールするのに、全世界にファンを持ち、高度な技術競争も行われるF-1は恰好のメディアであったと言えるだろう。

 グランプリ開催以前から、マレーシアのF-1進出は盛んであった。
 '95年という段階から、国営石油企業であるペトロナスはザウバーを支援し、フェラーリから供給されるエンジンのバッジネームにもなっている(本当は自主エンジンをザウバーと開発したいが、なかなか進行できずにいる)。
 また、'97年にはマレーシア政府の観光局もスチュワートをスポンサードしていた。

 もっとも、F-1の誘致に熱心だったアジアの国はマレーシアだけではない。中国、インドネシアらも、大々的なプロジェクトでF-1誘致活動を展開した。だが、先のアジアの不況からインドネシアは断念。中国もなかなか具体的な形として見えてこない。
 そんな中、マレーシアはクアラルンプール空港のすぐそばに、超近代的なセパンサーキットを新設するなど、着々と準備を進め、昨年、ついにF-1を開催することを成功させた。


 F-1にとっても、実はアジアは以前から魅力的な場所であった。なぜなら、アジアではタバコの広告の規制が非常に緩いからだ。ヨーロッパ圏サーキットではほとんどロゴを貼ることさえできないが、アジア圏では堂々とロゴをまとったマシンを走らせ、テレビ中継を通して全世界に宣伝することができるのだ。

 このマレーシアGPの開催は、両者の思惑が一致した結果だったわけである。


* * * 超近代的サーキット、セパン * * *


Sepan


 このマレーシアGP開催に合わせて新設されたセパンサーキットは、世界でも稀に見る超近代的な設備を備えたサーキットである。
 二本のストレートに挟まれる形で設置された特徴的な巨大スタンド。その端にある最終コーナーのスタンドの屋根はマレーシアの国花であるハイビスカスが象られていて、世界中にマレーシアをアピールしている。



 コースレイアウトも非常にかなり練り込まれたものになっている。追い越しが少なくなった現在のフォーミュラで、少しでも多くのオーバーテイクチャンスを増やそうと、それ以前のFIAの規定以上のコース幅を設定し、低速コーナーから高速コーナーまでバランスよく配置している。広く取られたセーフティゾーンなど、安全面に関する考慮も深い。
 だが、残念ながら実際のF-1レースでは、コース幅が広くても結局ラインが1本に限られるために、なかなかオーバーテイクは難しいようだ。


2.レース・レビュー

* * * 予選 〜 チームランキングを巡る激しい戦い * * *

 今年のF-1は完全にフェラーリとマクラーレンの一騎討ちであった。優勝者が全てこの2チームのドライバーであったことがそれを如実に物語っている。そしてこの予選もまた、それを象徴するかのようにトップ4のタイムのたたき出しあいになる。

 その中で目立っていたのがクルサードだ。一回目のフリー走行でトラブルが出てほとんど走れず、出遅れたクルサードだが、このサーキットの特性にあっているようで、スムースなコーナーの立ち上がりでタイムを稼ぎ、チームメートをリードしていく。

 だが、やはりそれ以上のタイムを出してきたのがシューマッハだ。最初のアタックから積極的にタイムを出してきたシューマッハはあっけなくポールポジションを獲得した。
 一方、ハッキネンにも意地がある。最後のアタックでクルサードを逆転してフロントローへ。結局スターティンググリッドのトップ4は、シューマッハ、ハッキネン、クルサード、バリッケロと、ランキング順と同様になった。

 この最終戦の結果でチームランキングが大きく変化する中堅チームの戦いも厳しいものになった。4位につけるベネトンはブルツが今期最高の5番グリッド、5位BARはヴィルヌーブが6番グリッド、6位ジョーダンは9,10番グリッドに二台が並んだ。


* * * 前半戦 〜 ハッキネン、痛恨のペナルティ * * *

 中堅チームに限らず、トップ2の順位も決定したわけではない。マクラーレンが1-2で、フェラーリが2ポイント以下ならば、大逆転が可能なのだ。

 そんな局面も孕みつつ、いよいよ今世紀最後のF-1のスタートだ。



start


 ブラックアウトの瞬間、ハッキネンが飛び出す。シューマッハはイン側にマシンを振って彼を牽制したが、間に合わなかった。さらに、クルサードもアウト側からシューマッハに並び、先に1コーナーへ。シューマッハは3位に後退。



crush


 一方6番グリッドのヴィルヌーブも絶妙のスタートを決め、一旦は4番手まで上がる。だが、2コーナーから3コーナーにかけての位置取りに失敗し、結局バリッケロ、ブルツに抜き返されて6番手に戻った。
 後方ではディニスとハイドフェルド、デ・ラ・ロサが接触し、破片がコースに飛び散った。結果、セーフティカーが導入されることになった。



 再スタート直後、いきなりハッキネンが立て続けに3台に抜かれ、4位に落ちた。なんとハッキネンはフライングをとられ、ペナルティストップを受けなければならなくなったのだった。彼は1ストップで大量の燃料を積んでいたので、ペースを落としてクルサードを前に出したのだった。
 ペナルティの10秒ストップを受けたハッキネンはなんと18番手にまで順位を落とし、この時点でコンストラクターズ大逆転のシナリオは絶望的となった。


* * * 中盤戦 〜 明暗を分けたピットストップタイミング * * *

 クルサードは快調なペースでぐんぐんシューマッハとの差を開いていく。予選で見せた好調振りを見せつけるかのようである。  だが、ハッキネンとの兼ね合いもあるのだろうが、クルサードは相当少なめの燃料だったのである。彼は17周目にはピットインせざるを得ず、混戦の中堅の後ろに出てしまい、彼らの前に出るのにてこずり、ペースを上げることができなかったのだ。

 一方、シューマッハは先頭を保ったまま、猛然とペースを上げた。クルサードよりも7周も遅らせてピットインしたシューマッハは、短かめのピットストップでまんまとクルサードの前でコースに戻ったのだった。
 一体、今期、何度この光景を目の当たりにしたであろう...。

 しかし、ハッキネンはペナルティストップを喰らったものの、依然としてピットインしないまま走り続けていた。マシンが軽くなるにつれてマシンの動きも良くなり、前を行くマシンを次々に抜き去って中盤には4番手まで上がってきた。これを目の当たりにすると、「フライングがなかったら...」と非常に悔やまれる展開である。



Mika vs Jacques


 このハッキネンと4番手を巡って争ったのがヴィルヌーブだ。
 数周にわたってハッキネンを抑え込んだ彼だったが、サンウェイ・ラグーンでミスを犯してしまった。だがその後、バックストレートでのダッシュ競争となり、最終コーナーまでサイド・バイ・サイドの末、パッシングを阻止してみせた。



 結局最終コーナーで突っ込み過ぎたヴィルヌーブは結局ハッキネンにかわされたが、どんな状況でも最大限の努力を惜しまない彼の走りには拍手を送りたい。


* * * 終盤戦 〜 王者の証明、シューマッハ4連続ポール・トゥ・ウィン * * *

 ハッキネンのピットストップ後間もなく、他のドライバー達の2度目のピットストップタイミングとなった。だが全車危な気ないピット作業で、順位は変わらなかった。

 だが、ここからクルサードが猛然とシューマッハをプッシュしにかかった。やはりこのサーキットで好調なクルサード。残り10周を残してテール・トゥ・ノーズに持ち込んでいく。明らかにシューマッハは苦しくなってきていた。



Johnny


 一方、ここ最終戦でF-1から引退するハーバートはサロやフィジケラとバトルをしながらチェッカーを目指していた。
 だが、残り8周というところで、リヤサスペンションが破損し、コースアウト、そしてクラッシュ。ハイスピードなクラッシュのため、彼のダメージが心配されたが、足の打撲程度で済んだようだ。
 12年間の波瀾に満ちた彼のF-1人生が幕を閉じた。...お疲れさま、ジョニー。




 さて、トップ2台は依然として接近戦を繰り広げていた。だが、クルサードにも、決定的チャンスを作れるほどの差がないようだ。



finish


 結局、そのままの順位でフィニッシュ。シューマッハはモンツァから4回連続のポール・トゥ・ウィンを決め、バリッケロも3位に入ってフェラーリのコンストラクターズ・チャンピオンが決定した。
 4位は驚異の追い上げを見せたハッキネン、5位はヴィルヌーブ。粘ったジャガーのアーバインが今期二度目の入賞を6位で果たした。




3.NOBILES Eye Special --- 2000年シーズン総括

* * * 赤く染まった2000年シーズン * * *

 フェラーリとマクラーレンが壮絶な戦いを繰り広げた2000年シーズン。結果、全てのレースが二つのチームのドライバーが優勝という結果となった。



Forza!


 だが実際、冷静に結果だけを見てみれば、2000年シーズンがフェラーリの圧勝だったことがわかる。10勝10ポール、170ポイント。そして、なんと全戦でポイントゲットを果たしている。
 これはフェラーリの栄光の歴史の中でも飛び抜けて良い数字である。21年振りのダブルタイトル獲得に相応しい活躍であったと言えるだろう。




* * * 最強の男がようやく掴んだタイトル * * *

 開幕3連勝を飾って圧倒的なスタートダッシュを飾ったシューマッハだが、シーズン途中は大いに苦心した。ぐんぐんと戦闘力を上げて追い上げてくるマクラーレンの前に、彼らしくない焦りが見えかくれした。なぜならこれまで彼は「追い上げる立場」であり続けたからであろう。その彼が守る側になった時、焦りが発生した。

 またその中で、彼のドライビングスタイルに関する批判まで乱れ飛ぶ事態となった。
 だが、こんなものは圧倒的に強い彼に対する嫉み以外のなにものでもないだろう。命を賭けた信頼あるものどうしのバトルに対し、「進路変更は一度まで」などという基準は無意味である。逆をいえば、それだけドライバーどうしの信頼関係が薄れていっているということであろうか?
 しかしながら、こうした論評も、彼を追い詰める要因の一つであったことは間違いない。彼のアイドルであったセナの通算勝利数まであと一つと迫りながら、彼は大いなる試練の中にいた。

 それが、赤く染まったモンツァで勝ち、記者会見で彼は公然と涙を流した。
 これまで、「プロのドライバー」として強靱な精神力を見せつけてきたあのシューマッハが公の場で涙を流すことの意味。「あれは彼のイメージ戦略なのでは?」などという見方に対して、筆者は憤慨すらおぼえた。なぜそこまでF-1に対してニヒルにならなければならないのか。なぜそうまでしてF-1をつまらないものであると考えようとするのか。

 彼がこれまで勝利に捧げてきた努力、ドライバーとして憧れたセナ...彼の目の前で逃げるように逝ってしまったセナに対する気持ち、そしてその彼の記録に並ぶ段階で訪れた試練。これらを考えれば、彼の涙が真実であったことは理解できるだろう。
 そしてそれは、ここまでショービジネスとして肥大化してしまったF-1の中にも、人間ドラマというものが色濃く残されていたのだ、ということを再認識させてくれた。


* * * これからも続くバトル * * *

 一方、敗れたハッキネンは、僅かに4勝に終わった。だがそれでも彼は時にはシューマッハをリードし、最終的には第16戦までタイトル決定を引き延ばしてみせた。

 これまで「速いが脆い」といわれたハッキネンであるが、今年は随分と違ったレース展開を見せた。
 第3戦から12戦連続ポイントゲット。2位はなんと7回。
 これこそが今シーズンの彼の成長の証であり、チャンピオンのプライドだと言えよう。彼はマシントラブルが起きた3戦以外、ドライバーエラーによるリタイヤを一度も喫していないのである。たとえ失敗しようとも、そこから諦めずにレースを組み立ててポイントに繋げる強さがあった。
 また、驚くべきことに、今期10度ものファステストラップを記録している点も注目しなければならない。

 これは、ハッキネンが苦しい状況でもシューマッハに対抗しうる術を身につけつつあることを示している。

 恐らく来期以降もフェラーリとマクラーレンのチーム力は他チームを圧倒するものであることは間違いない。そして、タイトルがシューマッハとハッキネンの間で争われるであろうことも。

 来期も今期以上の濃密なバトルが展開されることを望んで止まない。




Result
1 M.Schumacher Ferrari 1h35'54"235
2 D.Coulthard McLaren Mercedes +00'00"732
3 R.Barrichello Ferrari +00'18"444
4 M.Hakkinen McLaren Mercedes +00'35"269
5 J.Villeneuve BAR Honda +01'10"692
6 E.Irvine Jaguar +01'12"568
7 A.Wurz Benetton Playlife +01'29"313
8 M.Salo Sauber Petronas -1lap
9 G.Fisichella Benetton Playlife -1lap
10 J.Verstappen Arrows Supertec -1lap
11 J.Alesi Prost Peugeot -1lap
12 J.Trulli Jordan Mugen-Honda -1lap
13 G.Mazzacane Minardi Fondmetal -2laps
- DNF -

J.Herbert Jaguar -8laps (Suspension)

R.Zonta BAR Honda -10laps (Engine)

R.Schumacher Williams BMW -7laps (Hydraulic)

M.Gene Minardi Fondmetal -12laps (Rear Wheel)

J.Button Williams BMW -12laps (Engine)

H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda -16laps (Electroric)

P.De La Rosa Arrows Supertec -16laps (Accident)

N.Heidfeld Prost Peugeot -34laps (Accident)

P.Diniz Sauber Petronas -44laps (Accident)

Fastest Lap : M.Hakkinen (McLaren Mercedes) 01'38"543

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 108 1 Ferrari 170
2 M.Hakkinen 89 2 McLaren Mercedes 152
3 D.Coulthard 73 3 Williams BMW 36
4 R.Barrichello 62 4 Benetton Playlife 20
5 R.Schumacher 24 5 BAR Honda 20
6 G.Fisichella 18 6 Jordan Mugen-Honda 17
7 J.Villeneuve 17 7 Arrows Supertec 7
8 J.Button 12 8 Sauber Petronas 6
9 H-H. Frentzen 11 9 Jaguar 4
10 J.Trulli 6
11 M.Salo 6
12 J.Verstappen 5
13 E.Irvine 4
14 R.Zonta 3
15 A.Wurz 2
16 P.De La Rosa 2


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