* * * 最強の男がようやく掴んだタイトル * * *
開幕3連勝を飾って圧倒的なスタートダッシュを飾ったシューマッハだが、シーズン途中は大いに苦心した。ぐんぐんと戦闘力を上げて追い上げてくるマクラーレンの前に、彼らしくない焦りが見えかくれした。なぜならこれまで彼は「追い上げる立場」であり続けたからであろう。その彼が守る側になった時、焦りが発生した。
またその中で、彼のドライビングスタイルに関する批判まで乱れ飛ぶ事態となった。
だが、こんなものは圧倒的に強い彼に対する嫉み以外のなにものでもないだろう。命を賭けた信頼あるものどうしのバトルに対し、「進路変更は一度まで」などという基準は無意味である。逆をいえば、それだけドライバーどうしの信頼関係が薄れていっているということであろうか?
しかしながら、こうした論評も、彼を追い詰める要因の一つであったことは間違いない。彼のアイドルであったセナの通算勝利数まであと一つと迫りながら、彼は大いなる試練の中にいた。
それが、赤く染まったモンツァで勝ち、記者会見で彼は公然と涙を流した。
これまで、「プロのドライバー」として強靱な精神力を見せつけてきたあのシューマッハが公の場で涙を流すことの意味。「あれは彼のイメージ戦略なのでは?」などという見方に対して、筆者は憤慨すらおぼえた。なぜそこまでF-1に対してニヒルにならなければならないのか。なぜそうまでしてF-1をつまらないものであると考えようとするのか。
彼がこれまで勝利に捧げてきた努力、ドライバーとして憧れたセナ...彼の目の前で逃げるように逝ってしまったセナに対する気持ち、そしてその彼の記録に並ぶ段階で訪れた試練。これらを考えれば、彼の涙が真実であったことは理解できるだろう。
そしてそれは、ここまでショービジネスとして肥大化してしまったF-1の中にも、人間ドラマというものが色濃く残されていたのだ、ということを再認識させてくれた。
* * * これからも続くバトル * * *
一方、敗れたハッキネンは、僅かに4勝に終わった。だがそれでも彼は時にはシューマッハをリードし、最終的には第16戦までタイトル決定を引き延ばしてみせた。
これまで「速いが脆い」といわれたハッキネンであるが、今年は随分と違ったレース展開を見せた。
第3戦から12戦連続ポイントゲット。2位はなんと7回。
これこそが今シーズンの彼の成長の証であり、チャンピオンのプライドだと言えよう。彼はマシントラブルが起きた3戦以外、ドライバーエラーによるリタイヤを一度も喫していないのである。たとえ失敗しようとも、そこから諦めずにレースを組み立ててポイントに繋げる強さがあった。
また、驚くべきことに、今期10度ものファステストラップを記録している点も注目しなければならない。
これは、ハッキネンが苦しい状況でもシューマッハに対抗しうる術を身につけつつあることを示している。
恐らく来期以降もフェラーリとマクラーレンのチーム力は他チームを圧倒するものであることは間違いない。そして、タイトルがシューマッハとハッキネンの間で争われるであろうことも。
来期も今期以上の濃密なバトルが展開されることを望んで止まない。
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