Vol.8: Ventury-car (3)
(written on 3.Jul.1997, corrected on 29.Sep.1998)
previous Next

 '77年、画期的なグランドエフェクトカーとして登場したロータス78。しかしながら、その本当の脅威を人々が知るのにはもう少し時間が必要だったと申し上げました。
 実際、この年ロータスはマリオ・アンドレッティの円熟したドライブにより3勝を挙げたものの、チャンピオン争いに加わるには至りませんでした。一体その原因はなんだったのでしょう?

 それには幾つかの理由がありますが、ウィングの概念を脱却し、ベンチュリーによる画期的なダウンフォースを得たはずのロータス78も結局はまだ「ウィング」の影を引きずっていたことが大きな原因といえるでしょう。

Lotus78 side
ロータス78の側面図

 どういうことかといいますと、たしかにロータス78はベンチュリーをサイドポンツーンに形成してダウンフォースを得ようとしたマシンであり、サイドポンツーンをウィングと考えたマシンではありません。
 それはラジエターのアウトレットをサイドポンツーン上部に設けてあり、構造上部の空気を考慮していないことからも明らか(*注)です。

 しかしロータスの開発陣の頭のなかにもまだウィングが離れていなかったのでしょうか?ロータス78のベンチュリー構造はベンチュリーよりもむしろウィングに近いものだったのです。
 このためダウンフォースの発生点が重心点よりもかなり前方になってしまっていたのです。つまり、フロントにダウンフォースがかかりすぎ、リヤのダウンフォースが足りなくなってしまったのです。
 結局ロータス78はこのバランスを補正するためかえって大きなリヤウィングをつけなくてはならなくなり、直線のスピードを大きく損ねていたのです。

 また、不運も重なりました。レギュレーションの関係から、せっかく細身に仕上げたモノコックの側面、つまりコクピットの両脇に燃料タンクを配置せざるを得なかったのです。これは安全面でも空力面でも大変な損失でした。

 しかし、このセンセーショナルなマシンは他チームのデザイナーの注目を一気に集めることになりました。そして急遽ベンチュリー構造の研究に走るものもいましたが、中には78がベンチュリによってかつてない大きなダウンフォースを発生したことをなかなか信じられない者もいたようです。

 実際ロータスも目を逸らさせるのがうまかったのです。いや、というよりはロータス78はベンチュリーを取り入れただけでなく、他にもあらゆる先進的な試みをしていたからこそ革新的だったとも言えるのです。
 以前にも申し上げた非常に細身なアルミハニカムのフルモノコック、ローパーセンテージスリップデフ、そして優先ドレインシステムなど先進技術がふんだんに盛り込まれていました。しかも彼らのマシンはマリオ・アンドレッティという名手がドライブしていたのです。

 よって他チームはさほどの危機感を感じていたわけではなかったようです。


 しかしそうした連中もロータスが翌年に投入したロータス79によって度肝を抜かれることになったのです!

Annotates

注 : ウィングとベンチュリー

wing
ウィングの周りの空気の流れ

ventury
ベンチュリーの原理

 ウィングはその上面と下面に空気が流れ、飛行機の場合は上面、F-1の場合は下面の空気の流速を上げて負圧を作り、その方向に向けた力(揚力/ダウンフォース)を発生させるものである。ここで、ウィングの末端で上下の空気が合流する時、それは先端で分離した空気と同じ空気と合流する必要がある。

 それに対し、ベンチュリーは凸状の構造物が向かい合ったもので、その間を空気が通り抜けることで流速が上がり、そこに負圧が発生するものであり、ベンチュリー・カーの場合はその片方の凸状構造は路面になっているわけである (この場合、地面とマシンを引き寄せる力が発生するのでその力をグランドエフェクトとも呼ぶ)。

 ベンチュリーの場合は密閉された負圧になる部分のみが存在すれば良く、 ウィングのように上面/下面の空気を考慮する必要がない。

previous Next

back

back