Vol.14 : The Ambition of the
Vol.14 : "2nd Genelations" of Ventury-car
(written on 11.Sep.1997, corrected on 04.Oct.1998)
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 一時期の雌伏期を乗りこえ、長年の研究の成果であるベンチュリーカーで一躍時代の最先端へと鮮やかに蘇ったロータス。しかし、そのボス、コーリン・チャップマンはその頂にのんびりとあぐらをかいているような男ではありませんでした。

 ライバル達にもっと差をつけようと、ベンチュリー・カーのコンセプトをさらに過激に押し進めたマシンの開発を決意します。そのコンセプトとは...ウィングを無くすことにあったのです。
 つまり、さらにベンチュリー(*注1)の性能を追求することで、必要なダウンフォースは全てベンチュリーで確保し、より抵抗を伴う前後のウィング(*注1)は完全に排してしまおうと考えたのです。ウィングよりもはるかに抵抗が少なく、大きなダウンフォースを得られるベンチュリーによって「ストレートでは馬鹿っ速く、コーナーでも地面に吸い付いて安定して走る」という、まさに理想通りのレーシングカーとなるはずだ、というわけです。

 一方、「ファンカー」の道を閉ざされた(第十三回参照)ブラバムチームのゴードン・マーレイも、大きくリードされてしまったロータスに並び、さらには一挙に出し抜くべく、奇しくもロータスと同じコンセプトのもとに'79年度のマシン開発を進めていました。

 また、「ウィングカー」A1で成功できなかった(第十二回参照)アロウズのトニー・サウスゲートも同様に野心的な「レスウィング」ベンチュリーカーのを開発していました。

 こうして明日のF-1の主導権を握るべく、それぞれがそれぞれの思惑の中送り出したマシンは、完全にウィングの力に頼らない究極のベンチュリーを目指した「ベンチュリーカー第二世代」とでも呼べるものだと言えます。

 これらのマシンは一様にマシンの後方まで長く伸びた非常に大きなベンチュリー空間を持っていました。
 また、フロントウィングを持たず、リアウィングも非常に低い位置に取り付けられており、リヤウィングというよりも「トリムタブ」という呼ばれ方をしました。
 つまり、サイドポンツーンをウィングとして見立てたときの、フラップのような位置づけで、これそのものがダウンフォースを発生するというよりは、ベンチュリーの空気を引き抜くことを目的としたものでした。


ロータス80と79の
ベンチュリーの比較

 まず、「元祖」ロータス80は広大なベンチュリーを確保するためにホイールベース(*注2)を非常に長く設定し、トレッド(*注3)をギリギリまで広げました。
 そしてマシンの後部まで滑らかに伸びた巨大なベンチュリー構成していました。図を見ると79に比べてはるかに大きくなった80のベンチュリーが良くわかりますね。
 さらには、フロントウィングのなくなったフロントノーズも、幅広く、空洞にし、小さなベンチュリーを構成してしまったのです。なんとここにまで外部の気流と遮断するスライディングスカートを設置する凝りようでした(これを見たドライバーのマリオ・アンドレッティは「おいおい、これじゃまるで悪ガキが顔にバンソーコでも貼ってるみたいだな」と言ったそうです (^^;)。

 一方のゴードン・マーレイのブラバムはどうだったかというと、まずはロータスよりも、まず解決しなければならない問題がありました。

 前回も述べたように、'78年まで使用した幅の広いアルファロメオのフラット12エンジンではベンチュリーを構成するには無理がありました。そこでマーレイはアルファロメオに「フラットエンジンボツ」を告げたのです。

 アルファロメオもマーレイの期待に沿うべく、わずか半年あまりでベンチュリーカーに適したV12エンジンを制作してみせたのです。そしてマーレイの意欲作「ベンチュリーカー第二世代」ブラバムBT48は完成したのです。


ブラバム48(プロトタイプ)

 このBT48もロータス同様、いやそれ以上に大きく長いベンチュリーを持っており、フロントウィングもなく、リアも「トリムタブ」のみとなっていました(右の写真がBT48のトリムタブ)。
 アロウスのサウスゲートはロータスやブラバムよりもさらに先進的な考えで第二世代ベンチュリーカーA2を開発しました。
 つまり、ロータスらのようにサイドポンツーン(*注4)だけをベンチュリーとして見立てるのでなく、ボディ底面全体をベンチュリーに考えるという考えのもと、なんとエンジンとギヤボックスを後方に向かって上に傾けて取り付けたのです。これによってエンジン/ギヤボックスの下部にもベンチュリーを構成することに成功したのです。
 当然フロントウィングはなく、リヤは「トリムタブ」となっていました。
 期待に満ちた「第二世代」達の船出。...しかし。その航海はなんとも厳しいものとなってしまうのでした。
 確かに広大なベンチュリーを構成した第二世代達は少ない抵抗で大きなダウンフォースを得ることにはなりました。しかし、そうはうまいことばかりではなかった、ということなんです。彼らの前には新たに非常に重大な問題が立ち塞がっていたのです。

*注1:


ウィングの周りの空気の流れ


ベンチュリーの原理

 ウィングはその上面と下面に空気が流れ、飛行機の場合は上面、F-1の場合は下面の空気の流速を上げて負圧を作り、その方向に向けた力(揚力/ダウンフォース)を発生させるものである。

 それに対し、ベンチュリーは凸状の構造物が向かい合ったもので、その間を空気が通り抜けることで流速が上がり、そこに負圧が発生するものであり、ベンチュリー・カーの場合はその片方の凸状構造は路面になっているわけである(この場合、地面とマシンの間に力が発生するのでその力をグランドエフェクトとも呼ぶ)。

 ベンチュリーの場合は負圧になる部分のみが存在すれば良く、ウィングのように上面/下面の空気を考慮する必要がない。

*注2:

 前後車軸間距離のこと。一般的に、短くしたほうが不安定だが鋭敏なハンドリングになり、長くしたほうが安定はするが鈍感な反応になる。

*注3:

 左右のタイヤの接地面の中央間の距離。これも狭くしたほうが不安定だが鋭敏なハンドリングになり、広くしたほうが安定はするが鈍感な反応になる。

*注4:

 サイドポンツーンとは車体側面の箱のような部分のことであり、現在ではラジエターや、車載コンピュータなどを収め、側面衝突時の衝撃吸収の役目もある。もともとポンツーンとは水上飛行機のフロートのことを指す。

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