Vol.10: Lotus 79 & Rivals(1)
(written on 5.Aug.1997, corrected on 29.Sep.1998)
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 ロータスが決定的、かつ圧倒的だった79を投入したのは'78年も中盤戦にさしかかる頃でしたが、前年型であり、2年目に入った初のベンチュリー・カー78もかなり開発が進み、'78年開幕戦からかなりの強さを発揮します。1stドライバーのアンドレッティが圧勝し、2ndドライバーのピーターソンも5位に入ったのです。
 以降も他を圧倒するロータスにライバルチームはようやくロータスがしでかしたことの絶大さに気付いたようです。そして、この偉大な力、グランドエフェクトの研究を一斉に開始します。


 '77年に活動を開始したウルフ・チームは初年度ながらハーベイ・ポストレスウェイトのデザインによるWR1でなんとデビューウィンを飾り、しかもジョディ・シェクターをドライバーランキング2位に押し上げました。つまり、ロータス78に乗るマリオ・アンドレッティよりも上のランキングを獲得してしまったのです。

 ところが、'78年の開幕数戦でロータス78が前年からは想像もできない圧倒的な強さを発揮したのを見たポストレスウェイトはいたくショックを受け、急遽、シーズン中盤で投入する予定だったニューマシンの構想を白紙に戻し、ベンチュリーを組み込んだマシンを制作することを決断したといいます。

Wolf WR5
ウルフWR5

 ごく短期間に制作されたWR5は早くも第5戦モナコGPのプラクティスに姿を表します。ライバル達に先駆けロータスのグランドエフェクトの意味を理解し、自分のマシンに取り込んだポストレスウェイトの力量は評価されるべきでしょう。

 しかし、ウルフWR5はそこそこの速さを見せたものの、ロータス78/79を追いつめるどころか、優勝することもできませんでした。

 その原因はなんであるのか?

 まあ、結局のところ一言で言って、急ごしらえであったことが直接の原因なわけですが、具体的にはまず、ウルフのマシンのモノコックが従来と同様の幅の広いツインチューブモノコック(*注)であったことが挙げられます。そのため、十分に広いベンチュリーをそのサイドに配置することができなかったこと、また、モノコック自体の剛性も足りなかったようです。
 モノコックの剛性が足りなければモノコックに捻れの力がかかる度にモノコックが曲がってしまう訳ですから、車は予想できない動きをしはじめ、ハンドリングは悪くなりますし、セッティングも非常に難しい車になってしまうのが普通です。このマシンもその例には漏れなかったということでしょう。

WR5 Rear
ウルフWR5のリヤセクション

 さらには、ベンチュリーを抜けた空気の通り道にあたるリヤ周りもサスペンションがアウトボードであるなど、整理されておらず、せっかくのベンチュリーの効果を大幅に削いでいたと思われます。
 まあ、これはある程度ロータス78にも言えることなのですが(79ではこの辺りも徹底した整理がされています)。
 時間がなかったためにロータスのようにギヤボックスのケースまで新たに作る余裕がなかったというわけです。

 それでも、ベンチュリー空間を少しでも確保しようと、エンジンとギヤボックスの間に30cmものスペーサーを挟み込んだり、エキゾーストパイプを捻り曲げたりなど、急場凌ぎながら、なかなか努力の跡が伺えます。


 とはいえ、ウルフはロータスよりも進んだ面もないことはありませんでした。

 ロータスがベンチュリーの外気遮断のスカートにヒンジをつかったものを使用していたのに対し、ウルフでは板状のスカートをスプリングで路面に押し付ける形式を採用していたのです(ロータスはレギュレーションを恐れてあえて使っていなかったという話もありますが)。
 これは79においてロータスが逆模倣して採用してきました。


 このように、ロータスが持ち込んだグランドエフェクト/ベンチュリーは登場2年目にしてロータスが圧倒的な力を発揮することで、ようやくライバルチームの注目の的となりました。
 しかし、急ごしらえでは十分な性能を発揮できないことをウルフWR5は図らずも証明してしまったようですね。

Annotates

注 : モノコック

 モノコックはマシンの背骨とも言え、ドライバーや燃料タンクを収める一方、後部にエンジンが連結されるなど、非常に重要な部分である。ここの強度によってもマシンの操縦性能は大きく変わる。
 もともとは「一つの殻」を意味する。力を外皮全体で受け止めるため、軽量で丈夫な構造が可能となったというわけである。

monocock
ティレル008のバスタブモノコック

 従来のツインチューブモノコックはドライバーの両脇の二つの箱型をバルクヘッド(隔壁)でつなげた構造をしていて、ドライバーの上方が開いていた。そのため風炉桶のような外観で、バスタブモノコックともいわれた。非常に幅が広く、ベンチュリーを構成するには無理があった。

Lotus79
ロータス79の
シングルチューブモノコック

 これに対し、ロータスでは78で単純なシングルチューブモノコックを採用し、そのことで失われる強度を、ドライバーの足の部分も完全に覆うフルモノコックとすることで補った上、ベンチュリーによって発生する巨大なダウンフォースを受けとめようとした訳である

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