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2000 Round.10
Austrian
16th.Jul.2000

Austria
A-1 ring
A-1 Ring



1.オーストリアGPコースレビュー&ヒストリー

* * * A-1リンク * * *

 A-1リンクサーキットでオーストリアGPが再開されたのは'97年のこと。地元であるゲルハルト・ベルガーの熱心な活動によって復活した。
 それ以前は9年間休止されていた。なぜなら'87年、A-1の前身であるエステルライヒサーキットの時代に危険な多重クラッシュが発生し、赤旗が連発されたためだ。だが、一方ではより興行的に有利な国で開催したいという政治的思惑もあったと言われた。つまり、クラッシュが都合の良い口実として使われたということだ。

 かつてのエステルライヒリンクは森に囲まれた美しい高速サーキットとして名高かった。だが、非常に狭いホームストレート(先の多重クラッシュ発生場所)など、設備的には貧弱な面もあった。
 だが、A-1という通信業界の企業の資金援助により、最新鋭の設備を備え、レイアウト的にもテクニカルな近代的なサーキットとして生まれ変わった。

 サーキットとして大きな特徴は、山の斜面を利用した高低差だ。そこに長いストレートとバラエティ豊かなカーブが組み合わされている。実はエンジンの全開率は70%を越えるエンジンサーキットという性格はエステルライヒ同様である。
 1コーナーであるカストロールをぬけてからの長いストレートの終わりにあるレームスと、その先のゲッセルはパッシングポイントだと言えるだろう。
 それに続く左の二つのコーナーにはラウダ、ベルガーと名がついている。
 また、大きく下った後のヨッヘン・リントと、続く最終A-1コーナーは非常に難しいカーブと言われ、コースアウトするマシンが非常に多いポイントである。


* * * チャンピオンを賭けたバトル * * *

 初年度の'97年は、プロストやスチュワートといったブリヂストン勢中堅チームの躍進が目立った。特に、プロストのトゥルーリは3番グリッドからスタートし、1周目でエンジンブロウしたハッキネンを尻目に、レース中盤までトップを快走。
 だが、そのトゥルーリも結局エンジンブロウ。優勝したのはポールポジションのジャック・ヴィルヌーブだった。

 '98年はチャンピオンを賭けた白熱のバトル。雨の予選を制してポールを取ったのはフィジケラであったが、スタートで瞬く間に1, 2位となったのはこの年のタイトル争いを展開していたハッキネンとシューマッハ。展開されたのは仁義なき戦いであった。
 前を行くハッキネンをあらゆるコーナーでプッシュするシューマッハ。だが、鉄壁の守りでそれを許さないハッキネン。非常に濃密な接近戦はしかし、17周目の終わり、あの難しいヨッヘン・リントカーブでシューマッハがオーバースピードでコースアウト!
 フロントウィングを傷めたシューマッハはその後3位に追い上げるのが精一杯。
 一方、ハッキネンはクルサードを従えて優勝。'98年チャンピオンシップの大きな節目のひとつであった。

 '99年もその年を象徴するレースだった。ポールからスタートしたハッキネンは直後のレームスでなんとチームメート、クルサードの意表をついたアタックを受けて接触、スピン。さらに、ピット作業でクルサードは、チャンピオン争いのライバル、アーバインに逆転を許してしまう。
 シューマッハの怪我による脱落で油断したマクラーレンはチームメート同士の争いを許した。そして間隙を縫ったアーバイン。ここから、ハッキネンとマクラーレンの歯車は大きく狂い始めてしまったのだ。


* * * 語り種レース * * *

 さてさて、恒例の「語り種レース」のコーナー。
 今回は'82年のレースに触れよう。

 50年の歴史の中でも稀に見る大混戦であったこの年であるが、エステルライヒでのオーストリアGPもそれを象徴するかのようなレースであった。
 この年から大きく勢力を拡大したターボ勢、ブラバムBMWとルノーがトップグループを形成したこの高速レース。
 しかし彼らがトラブルで脱落した後、トップに立ったのは不振に喘いでいたロータスのエリオ・デ・アンジェリス。マシンは伝統のNA、DFVエンジンを搭載するロータス91だ。そして、それを同じくDFVのウィリアムズFW08、ケケ・ロズベルグが猛追する。
 凄まじい接近戦の最終ラップ、高速の最終コーナーでスリップストリームに入ったロズベルグはデ・アンジェリスの右に出る!マシンが並ぶ!しかし、わずか0.05秒差、先にゴールしたのはデ・アンジェリスだった。

 このリザルトは多くの意味を持っていた。

 デ・アンジェリスにとっては嬉しい初優勝。そして、不振のロータスにとっても、4年ぶりの優勝だったのだ。そして、この年の12月に死亡することになる偉大なる創設者、コーリン・チャップマンにとっては最後の優勝となったのだ。優勝のゴール時にハンチング帽を投げていた彼のアクションもこれが最後となってしまったのである。

 一方、この年のチャンピオンとなるロズベルグにとっても大きな2位であった。驚くべきことに、この第13戦の段階で、ロズベルグは優勝がなかったのだ(もっとも、彼は前年度ノーポイントのドライバーだったのだが)。
 この2位を足掛かりに翌戦のスイスで優勝したことで、彼は既に事故で脱落していたフェラーリのディディエ・ピローニのポイントを逆転し、一挙にチャンピオン争いのトップに立つことになるのである。


2.レース・レビュー

* * * 予選 〜 悩めるポイントリーダー * * *

 今回の予選は、直前から小雨がぱらつき始めたことから、本降りになる前にタイムを出そうと、ほぼ全車が開始と同時にコースインする異例の展開となった。だが、すぐに雨は収まり、以降は普段通りの落ち着いた展開となった。

 その中で、ポイントリーダー、シューマッハが悩んでいた。バラエティ溢れるコーナーが散りばめられたこのA-1サーキット。どうしてもフェラーリF1-2000のバランスが出ない。
 ここまでの好調を支えたのは、どのサーキットに行っても大きく変更を加えなくてもすんなり走れたシャシーの素性の良さだった。しかし、ここA-1では予選中にリヤウィングを変更するなど、かなり苦労したようで、大事なアタック中にレームスコーナーでスピンを喫してしまった。
 結局彼はチームメート、バリッケロの後塵すら拝して4番手に留まってしまった。

 一方、順調な予選をこなしたのはマクラーレン勢である。筆者には、よりアグレッシブな走りをしていたのは絶好調のクルサードのように見えた。特に最終コーナーの立ちあがりは非常に迫力あるものであった。
 だが、このコースを得意とするハッキネンはコンスタントにタイムを刻み、クルサードを寄せ付けず、見事に7戦ぶりのポールポジションを獲得した。前戦フランスでディフューザをはじめとする変更により、MP4/15の挙動は以前よりも安定しており、ハッキネンも余裕を取り戻したようである。


 ところで、前戦予選6位と気を吐いたジャガーのアーバインだが、金曜のフリー走行後、盲腸の疑いがあるということで、土曜からはテストドライバーのルチアーノ・ブルチが出走することになった。



Burti


 ブルチはブラジルの大富豪で(ディニースを越えるとすら言われる)、昨年はポール・スチュワートレーシングからイギリスF-3に出走し、新興マノールチームのマーク・ハイネスと熾烈なチャンピオン争いを演じ、惜しくも2位に甘んじたドライバーである。つまり、同3位であったジェンソン・バトンよりも昨年までの実績は上だったのだ。



 それが今や、ジャガーのテストドライバーに留まったブルチと対照的に、バトンはイギリスのヒーローとなっている。彼らを抑えてチャンピオンを獲得したハイネスに至っては開幕時にはドイツF-3に参戦するのが精一杯、今は国際F3000で苦戦を強いられる日々。単なる実績だけではF-1では成功できないのだ。

 そして、満足な周回をこなせなかったブルチは予選21番手に甘んじた。


* * * スタート・前半戦 〜 大波瀾 * * *

 '98年にも虎之介らを巻きこんだクラッシュが発生したオーストリアGPのスタート。今年は、更なる波瀾が待ちうけていた。

 良いダッシュを見せたのは2番グリッドのクルサード。だが、無難に決めたハッキネンは1コーナーでうまく被せて1位のままでクリア。
 ところが、その後ろが凄まじい事になっていた。



crush


 3番グリッドのバリッケロは4番グリッドのシューマッハを先に行かせようとしたのか、中途半端なラインどりになった。シューマッハもそのインに入るかどうか躊躇した。そこへ、後方集団がどっと押し寄せたのだ。予選から絶好調だったBARのゾンタが勢い余ってシューマッハに追突。...スピンを喫したシューマッハに、ジョーダンのトゥルーリが突っ込み万事休す。



 さらには、その直後でもフィジケラがスピンし、レースを終えていた。後方はこれらのマシンをよけるために大混乱になっていた。

 ここで即セーフティカーが入る。
 この多重クラッシュで順位の方も意外な展開になっていた。1, 2位のハッキネン・クルサードは磐石であったが、3位にサロ(予選9位)が躍進、4位にデ・ラ・ロサ(同12位)、5位ハーバート(同16位)、6位バトン(同18位)と、クラッシュをかいくぐった予選下位勢が躍進し、トゥルーリに追突されてグラベルに飛び出たバリッケロは7位にまで落ちていた。
 ミナルディのジェネも予選20位から8位に上がっており、レース中盤まで立派にこの順位をキープしてみせた。


 セーフティカーが退いた後、大活躍を演じたのはアロウズのデ・ラ・ロサだ。
 全開率70%を超えるこのA-1、カスタマーエンジンであるスーパーテックを使用するアロウズにとっては辛いサーキットに思える。しかし、デザイナーであるエグボール・ハミディのデザインするマシンはスチュワート時代からグリップが高く、ウィングを寝かせて高いストレートスピードを実現していた。

 ロサは1コーナーでサロをあっさりパスし、3位に上がり、力強い走りで後続との距離を広げてみせた。また、最初のクラッシュでフロントウィングを脱落させて後退したチームメートのフェルスタッペンも途中ファステストを刻むなど、素晴らしい動きを見せていた。

 だが、残念ながら彼らは途中でトラブルを起こしてリタイヤしてしまった。


 一方、バリッケロは速い段階から順位を挽回する動きを見せる。バトン、ハーバート、サロを立て続けにかわし、ロサの脱落から3位まで回復してきた。
 だが、その頃には既にマクラーレンの二台との差は決定的なものとなっていた。


* * * 後半戦 〜 躍進のヴィルヌーブ * * *

 快調に飛ばすマクラーレン勢。前半の段階で4位までを周回遅れにし、3位バリッケロとの差も十分。ピットストップを行っても彼の前に戻り、再び1-2体制を悠々と続ける。

 この頃、1コーナーでプロストの2台、ハイドフェルドとアレジが2戦連続の同士討ちを演じていた。
 マシンの不調をプジョーの責任と公言し、その一方でテクニカルディレクターのアラン・ジェンキンスも解雇。その上ドライバー同士で潰しあっては最悪のチーム状態と言わざるを得ない。プロストのマネージメント力に疑問符を打たざるを得ない。


 一方、オープニングラップで大きく遅れたヴィルヌーブはピットストップを極限まで遅らせる作戦に出ていた。そしてこれが見事に的中する。レースも70%を終えたところでピットインしたヴィルヌーブはなんと4位に上昇していたのだ。



Button


 直後、その後ろにつけたバトンが最終コーナーでコースアウトしてしまった。うまくコントロールして戻ったものの、すぐ後ろまでサロとハーバートに迫られてしまった。だが、ルーキーながらバトンは再び落ち着きを取り戻し、彼らのチャレンジを退けて5位を守った。



 未だに消えないファン・パブロ・モントヤのチーム復帰の噂。イギリスのヒーローとなった彼はウィリアムズにとっても大きな武器であることに間違いはないが、彼にはさらなる結果を求められている。それほど、F-1の世界での評価の移り変わりは早いのだ。


* * * ゴール 〜 暫定のままのリザルト * * *


Podeum


 結局、マクラーレン勢は全く危な気なく1-2フィニッシュを果たした。続いて、1周目の混乱の戦犯とも言えるバリッケロはなんとか最低ラインである3位は保った。
 以下、ヴィルヌーブ、バトン、サロと入賞。
 ピットスタートを強いられたニューカマー、ジャガーのブルチはしかし、2周遅れながら完走を果たし、チームから高い評価を得た。



 大きな大きな1-2フィニッシュを得たかと思われたマクラーレンであるが、レース後の車検で衝撃が走った。優勝のハッキネンのマシンのECUボックス(コンピュータユニット)からFIAの公認の封印が剥がれていたというのだ。
 このECUはFIAによって押収され、検査されることとなった。オーストリアGPでの結果も暫定扱いとなり、次週にも結論が出されることとなった。


3.総括


 まずはハッキネン車の問題について言及しよう。
 ECUは電子技術全盛の現在、トラクションコントロールなどの違反プログラムが潜んでいる可能性も高い部分だけに、厄介な部分ではある。多かれ少なかれ、どのチームも規則スレスレのことはやっていることはもはや公然の事実でもある。
 マクラーレンによると、走行中の振動で封印が剥がれただけで、なんの問題もない、と説明があったが...。
 これが、昨年のスペインGPでバリッケロに対して見られたタングステンバラスト抑制のための「見せしめ失格」と同じようなことに発展しないことを筆者は切に祈るばかりだ。まあ、まさか優勝したドライバーに対して行われるとは思わないが。
 どちらにしても、早期に結論を出してもらいたいものである。


 さて、暫定結果ながら、今回はマクラーレンの独壇場であった。
 本当に、安定したコンディションでのハッキネンは無敵の強さである (^^;。絶好調のクルサードさえ、全く寄せつけなかった。いつでも、どんな危機でもこの力をコンスタントに出せるようになれば、彼は本当のグレーテッドドライバーと呼ばれるようになるだろう。
 一方、ここでハッキネンが復活してしまったことは、チャンピオン獲得に向けて着々とチームでの地盤を固めていたクルサードにとっては誤算であったろう。

 迷宮に入り込んでいたのはシューマッハ。まるでシーズン前半の勢いが嘘のような状況である。高速エンジンサーキットが続く今後も「守り」中心の走りとなるかもしれない。

 暫定ランキングはシューマッハ56、クルサード50、ハッキネン48。なんとも、見る者にとっては願ってもない面白い展開だ。
 早々とカナダでチームオーダーを出してシューマッハナンバーワン体制を築き上げたフェラーリと二人の争いを許すマクラーレン、という例年通りの図式も面白い。マクラーレン勢が星を食い合ってしまうのか、それとも、共同でシューマッハを潰しにかかるか。過去2年とは全く違う展開に期待したいところだ。


 次戦ドイツは7/30。シューマッハにとっても、メルセデスにとっても地元となる、超高速バトルが待っている。




Result
1 M.Hakkinen McLaren Mercedes 1:28'15.818
2 D.Coulthard McLaren Mercedes +12.535
3 R.Barrichello Ferrari +30.795
4 J.Villeneuve BAR Honda -1lap
5 J.Button Williams BMW -1lap
6 M.Salo Sauber Petronas -1lap
7 J.Herbert Jaguar -1lap
8 M.Gene Minardi Fondmetal -1lap
9 P.Diniz Sauber Petronas -1lap
10 A.Wurz Benetton Playlife -1lap
11 L.Burti Jaguar -2lap
12 G.Mazzacane Minardi Fondmetal -3lap
- DNF -

R.Zonta BAR Honda 58laps (Engine)

R.Schumacher Williams BMW 52laps (Brake)

N.Heidfeld Prost Peugeot 41laps (Accident)

J.Alesi Prost Peugeot 41laps (Accident)

P.De La Rosa Arrows Supertec 32laps (Engine)

J.Verstappen Arrows Supertec 14laps (Electric)

H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda 4laps (Oil)

M.Schumacher Ferrari 0lap (Accident)

G.Fisichella Benetton Playlife 0lap (Accident)

J.Trulli Jordan Mugen-Honda 0lap (Accident)

Fastest Lap : D.Coulthard (McLaren Mercedes) 1'11.783

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 56 1 Ferrari 92
2 D.Coulthard 50 2 McLaren Mercedes 88
3 M.Hakkinen 48 3 Williams BMW 19
4 R.Barrichello 36 4 Benetton Playlife 18
5 G.Fisichella 18 5 BAR Honda 12
6 R.Schumacher 14 6 Jordan Mugen-Honda 11
7 J.Villeneuve 11 7 Sauber Petronas 4
8 J.Trulli 6 8 Jaguar 3
9 H-H. Frentzen 5
Arrows Supertec 3
10 J.Button 5
11 M.Salo 4
12 E.Irvine 3
13 J.Verstappen 2
14 R.Zonta 1

P.De La Rosa 1


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