< Round.8 Canadian

Round.10 Austrian >


2000 Round.9
French
2nd.Jul.2000

France
Magny Cours
Magny Cours



1.フランスGPコースレビュー&ヒストリー

* * * マニクールサーキット * * *

 マニクールサーキットは、'90年までのポール・リカールに代わり、新設されてすぐに'91年からF-1が開催され始めた比較的新しいサーキットであるが、当時は、このサーキットにホームを置いていたリジェに有利になるような政治的な決定だったとも言われた。
 ポール・リカールに比べるとレイアウト的にはドライバーにも不評で、ピケなどは「なんのために大枚はたいて移す必要があるんだ?」と大変辛口であった。

 ポール・リカールも非常にフラットなコースとして知られたが('89年や'90年、バンピーな路面に極めて弱く散々だったニューウィーのレイトンハウスのマシンが、ポール・リカールで突如速くなったのは印象的)、このマニクールも同様の特徴があり、スムースな路面を持っているため、マシンの性能差が比較的出やすいサーキットであると言える。

 コーナーは非常にバリエーションが多い。横Gが4G近くに達するという長い高速コーナー「エストリル」はマシンの性能の差が歴然と現れる。
 また、「ゴルフストレート」の後の「アデレードヘアピン」は非常にタイトで、唯一と言って良いパッシングポイントであろう。今年も多くの好バトルが見られた。


* * * 雨の多いマニクール * * *

 さて、マニクールでのレースでは意外に雨が多い。

 まず、'92年にはあまりの大雨に赤旗が出て2ヒート制になった。
 別にその雨には関係ないが (^^;、第1ヒートのスタート直後、アデレードヘアピンでシューマッハに無謀な追い越しをかけられて追突され、リタイヤを喫したセナが、第2ヒートスタート前に彼に説教するシーンは印象的であった。
 無謀な走りでラウダら先輩から非難されていたあのセナが、若いドライバーに説教をするようになったのか!まさに世代交代を感じさせたものだ。

 '97年もまた雨。
 終盤になって本降りとなった中、トップを独走していたシューマッハはコースアウトを喫しながらもスリックタイヤのまま走りきり、フレンツェンを退けて優勝。

 '99年は予選からずっと雨絡み。
 雨に強いスチュワートのバリッケロがまんまとポールポジションを獲得。一方でチャンピオンの本命ハッキネンはなんと14番グリッドに沈む。
 しかし、激しい追い上げを見せたハッキネンはミスもあったもののレース中盤に見事トップに立つ。
 ところが非常に老獪な作戦を採った者がいた。ジョーダンのフレンツェンだ。
 雨とセーフティカーで燃費が良くなるのを見越し、1回目のピットで多めの燃料を積んだ彼は残りわずかで再度ピットインを強いられたハッキネンとバリッケロを尻目に1ストップで走り切って見事に優勝。ある意味、雨のレースで'97年のリベンジを果たしたと言えよう。

 ちなみに、このコースでの10回のグランプリで、シューマッハがなんと4勝という高勝率を誇っている。


* * * 語り種レース * * *

 マニクールではなく、ディジョンでのレースではあるが、'78年のフランスGPも語り種レースとして是非触れておきたい。

 このレースはルノーがF-1史上初のターボエンジンによる優勝を飾ったレースとしても知られているが、素晴らしかったのは2位争いだ。
 フル参戦2年目のジル・ヴィルヌーブ(フェラーリ)と、同1年目のルネ・アルヌー(ルノー)によるファイナルラップの争いは、タイヤとタイヤをぶつけながら、何度も順位を入れ替えてのサイド・バイ・サイドバトルで、最後は0.24秒差でヴィルヌーブが前に出て、ルノーの母国1-2を阻止した。

 お互いに致命的なダメージを与えたり、コースアウトさせたりすることもなく、非常にクリーンな素晴らしいバトルであったと言えるが、一部からは「無謀すぎるバトルだ」などというレースの醍醐味を知らぬとしか思えない声も上がった。
 だが、前年度チャンピオンのマリオ・アンドレッティは言った。
 「2匹の若いライオンがじゃれあっただけさ」
 ...すべての雑音を一掃するような、なんとも粋なセリフではないか!

 そして奇しくもこのフランスGPで今年はサイド・バイ・サイドの好バトルが展開されたのである。


2.レース・レビュー

* * * スタート・序盤戦 〜 厚き2枚の赤い壁 * * *

 予選はカナダに続き、シューマッハとクルサードの争いとなった。
 クルサードはフリー走行でトラブルが出てあまり走れなかったにも関わらず、見事なポール争いを演じた。
 だが、結局勝ったのはシューマッハの方であった。モナコGPから3連続ポールだ。

 ハッキネンはまたしても精彩を欠く。カナダに続き、チームメートはおろか、バリッケロの後塵すら拝して4番手に留まる。本格的なスランプか。

 他に予選で目立ったのはアーバインの6番グリッドであろうか?調子の上がらないジャガーだが、このスムースなマニクールサーキットでは比較的良い動きをするようだ。



start


 迎えた決勝スタート。
 シューマッハの動きに気を取られ加速の鈍ったクルサードを尻目に、バリッケロが2番手に上がる。その後ろではヴィルヌーブがまたしてもジャンプを決め、ハッキネンの後ろ、5番手に躍進していた。



 早くもフェラーリが1-2フォーメーションを築き上げた。ペースがわずかに劣るバリッケロが壁となる事で、シューマッハが逃げて行くという磐石の態勢だ。

 だが、今回はフェラーリの思惑通りには行かなかった。
 クルサードは予選時からアデレードヘアピンの立ち上がりが非常に速かった。そしてレースでもこれが炸裂する。バリッケロをここで仕留め、見事に2位に浮上したのだ。
 スタート直後はアンダーステアが出ており不安定だったそうだが、マシンが安定してからはペースをつかみ、シューマッハとの差が決定的になるより前に、赤い壁を一枚攻略してみせた。


 直後ハッキネンが最初のピットインを敢行。これを契機に、上位陣の1度目のピットインがはじまっていく。
 トップのシューマッハは多少、多めの燃料を積んで出て行く。だが、そのダッシュは鈍く、クラッチの調子が悪いようである。

 今度はクルサードとバリッケロが同時にピットイン。多少もたついたバリッケロを尻目に、無難に決めたクルサードは2位を守ってコースに復帰していく。バリッケロはハッキネンにも抜かれ、4位に後退。ハッキネンは労せずバリッケロをかわしたことになる。


* * * 中盤戦 〜 クルサード・ブレークスルー * * *

 ピットイン後、マクラーレン勢のペースが速い。特にクルサードは、周回遅れも素早く処理してみるみるシューマッハに接近して行く。

 かつて、「周回遅れが協力してくれない」などと公式に発言し、「ハッキネンが来たのなら譲るさ」と他のドライバーの失笑を買った、あのクルサードとは思えない自信を感じる走りである。


 ついに、テール・トゥ・ノーズに持ち込んだクルサードは躊躇しない。アデレードヘアピンの飛び込みでインに寄せたシューマッハのアウトから並びかける。
 だが、インを占めたシューマッハは譲らず、軽く接触しながら順位を変えずにヘアピンを抜けて行く2台。

 クルサードは「俺を押し出すつもりか!」と大きなジェスチャーで抗議した。
 だが、ブレーキング距離が極めて短い現代のF-1ではこうしたケースになりがちだ。今回もクルサードはヘアピン進入でわずかに前に出た程度であり、シューマッハ側に、明確な「譲る」という意志がなければ抜くことはできなかったであろう。そしてシューマッハほど、そういった意志にさせるのが難しいドライバーは今のF-1にはいない。
 とにかくそれほど、現代F-1でのパッシングは難しいものになってしまっている。

 しかし、このまま終わっては、クルサードの抗議もまたしても単なる「負け犬の遠吠え」で終わってしまう。勝負の世界は「勝てば官軍」である。


 このクルサードの仕掛けから、シューマッハはガードをさらに固くした。そのペースは遅く、みるみる3位ハッキネン、4位バリッケロもぐんぐんと距離を詰めてきた。
 シューマッハにとってはこれで良かったのだ。多めの燃料を積んでいる彼は2回目のピット作業を短くし、順位キープを狙えたからだ。



Hyper Battle


 だが、やはりこの日のクルサードは違った。
 場所は再びアデレードヘアピン。
 ゴルフストレートで距離を詰めてきたクルサード。アウトに一旦振るように見せかけ、再びインへ!...あのシューマッハでもノーマークだった攻撃。さすがに成す術もなく、パスを許した。



 さらに、「俺はシューマッハとはやり方が違う」と思ったかはどうか知らないが (^^;、シューマッハのラインを完全に潰してはいない。フェラーリの前後輪の間にクルサードの後輪が来ると言う際どいサイド・バイ・サイドであったが、接触することなくコーナーをクリアしていったようだ。
 文句のつけようのないパッシングと言えよう。


 トップに出たクルサードはじりじりとシューマッハとの差を開いて行く。一方、シューマッハをパスできないハッキネンはバリッケロとともに3台の2位集団を形成していた。


 ここで、シューマッハとハッキネンが同時にピットイン。
 ハッキネンは再びピットでの逆転を狙う。だが、燃料を多く積んでいたシューマッハの方が作業終了が早く、それは叶わなかった。
 その直後ピットインしたバリッケロはフロントタイヤの交換に手間取り、この集団からは脱落してしまった。


* * * 終盤戦・ゴール 〜 シューマッハ、脱落 * * *

 後半戦に入り、接近戦となっていたのはシューマッハとハッキネンの2位争いだ。ハッキネンは依然としてシューマッハにしかけるに至らない。クルサードほどのキレはないようである。

 しかし、決着はあっけなくついた。シューマッハにエンジントラブルが発生したのだ。ハッキネンは、またしても労せずして2位に上がる。直後、シューマッハは白煙を吹くマシンをコースサイドに止めた。

 気がつけば、序盤とは逆に、マクラーレンが磐石の1-2態勢を築いていた。



Jordan & Williams


 一方、このレースは中団グループの争いも激しかった。
 特に、来季からのホンダワークスエンジン獲得を決めたジョーダン勢と、BMWとの協力関係を築いたウィリアムズ勢のバトルは前半戦から熾烈を極めていた。



 後半に入ると、トゥルーリとラルフ、フレンツェンとバトンがそれぞれの順位を争っていた。ラルフはクルサード同様、見事にアデレードヘアピンでトゥルーリをかわしたが、バトンはフレンツェンを追い詰めながら惜しくも抜けず、8位に終わった。

 ラルフは最後にはBARのジャックにも接近したが、タイヤの消耗が激しくなり、ジャックが4位で粘り抜いた。



Podeum


 結局、マクラーレン勢は1-2態勢のままゴール。バリッケロが3位を守り、以下、ヴィルヌーブ、ラルフ、トゥルーリと続いた。
 最後まで随所でバトルが繰り広げられたレースであった。




3.総括


 やはり...特筆せざるを得ないのはクルサードだ。
 正直言って筆者は、この予選の段階でも実況の「生まれ変わったクルサード」というセリフに懐疑的だった。
 だが...。
 追い越しの非常に困難な現代F-1において実力の伯仲するフェラーリを2台ともコース上で撃破されては、本物と言わざるを得ないだろう。
 彼は、完全に自信をつけたようだ。


 一方、ハッキネンは逆に迷宮入りしている感がある。表彰台のシャンパンファイトも、他の二人を残して早々に引き上げてしまったようだ。

 過去2年、自分とマッチするマシンを得た彼は素晴らしい力を発揮してきた。だが今年は、それが僅かにずれてしまったようである。
 そんな状況下でも柔軟に対応し、チームとともに自分にあったマシンに変えていくのが、セナやプロスト、そしてシューマッハなどのグレーテッドドライバー達に共通した特長であった。
 だが、ハッキネンには彼らのような柔軟性と力強さが感じられない。彼の勝利への執着心はどこへ行ってしまったのか?


 一方、シューマッハにとってはまだまだ焦る必要はないのだ。
 たしかに、安穏としてはいられないが、まだフェラーリは実力でポールを獲得できる戦闘力があるのだから。
 それをいかにマクラーレン勢が突き崩すか。なかなか面白くなってきたではないか!


 次戦オーストリアGPは7/16、A-1リンクである。




Result
1 D.Coulthard McLaren Mercedes 1:39'05.538
2 M.Hakkinen McLaren Mercedes +14.748
3 R.Barrichello Ferrari +32.409
4 J.Villeneuve BAR Honda +1'01.322
5 R.Schumacher Williams BMW +1'03.981
6 J.Trulli Jordan Mugen-Honda +1'15.604
7 H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda -1lap
8 J.Button Williams BMW -1lap
9 G.Fisichella Benetton Playlife -1lap
10 M.Salo Sauber Petronas -1lap
11 P.Diniz Sauber Petronas -1lap
12 N.Heidfeld Prost Peugeot -1lap
13 E.Irvine Jaguar -2laps
14 J.Alesi Prost Peugeot -2laps
15 M.Gene Minardi Fondmetal -2laps
- DNF -

M.Schumacher Ferrari 55laps (Engine)

P.De La Rosa Arrows Supertec 42laps (Accident)

A.Wurz Benetton Playlife 31laps

G.Mazzacane Minardi Fondmetal 28laps (Accident)

J.Verstappen Arrows Supertec 22laps

J.Herbert Jaguar 17laps

R.Zonta Bar Honda 13laps

Fastest Lap : D.Coulthard (McLaren Mercedes) 1'19.479

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 56 1 Ferrari 88
2 D.Coulthard 44 2 McLaren Mercedes 82
3 M.Hakkinen 38 3 Benetton Playlife 18
4 R.Barrichello 32 4 Williams BMW 17
5 G.Fisichella 18 5 Jordan Mugen-Honda 11
6 R.Schumacher 14 6 BAR Honda 9
7 J.Villeneuve 8 7 Jaguar 3
8 J.Trulli 6
Sauber Petronas 3
9 H-H. Frentzen 5
Arrows Supertec 3
10 E.Irvine 3

J.Button 3

M.Salo 3
13 J.Verstappen 2
14 R.Zonta 1

P.De La Rosa 1


< Round.8 Canadian

Round.10 Austrian >


Back to "Grand Prix Review"