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2000 Round.8
Canadian
18th.Jun.2000

Canada
Gilles Villeneuve
Gilles Villeneuve



1.カナダGPコースレビュー&ヒストリー

* * * ジル・ヴィルヌーブサーキット * * *

 カナダGPが行われたジル・ヴィルヌーブサーキットは、万国博覧会のために造られた、セントローレンス川にある人口島の公園の外周道路を利用している。
 そのため、パーマネントサーキットではなく、グリップなども低い。また、コンクリートウォールとの距離が近く、クラッシュしたマシンの撤去のために赤旗やセーフティーカーが導入される確率が非常に高い。
 今年それがなかったのは意外ですらあった。

 レイアウト的には小さなコーナーをストレートで結んだストップアンドゴーサーキットで、ブレーキに非常に厳しく、またエンジンの実力が試される。
 1.5kmに及ぶバックストレート(オリンピックローイングストリップ)の後の最終のシケインは、パッシングのチャンスはあるが、非常にタイトで、昨年などはシューマッハ、ヴィルヌーブ、ヒルと、3人のチャンピオンがコンクリートウォールの餌食になった。
 だが、ここでも今年は一人もクラッシュしなかった。

 1コーナーもスタートラインからの距離が短く、スタート直後には毎年何台かのマシンがクラッシュしていたが、これも今年は無く、全体的に、アクシデントが比較的少ない、例年よりも落ち着いた一戦であったと言えるだろう。


* * * ジル・ヴィルヌーブの記憶 * * *

 このサーキットでは、やはり伝説のヒーロー、ジル・ヴィルヌーブの記憶抜きには語ることはできない。

 ここモントリオールで初めてF-1が開催されたのは'78年のことである。ロータスがベンチュリーカー79を投入し、猛威をふるった年である。しかし、前年度にニキ・ラウダの代役としてフェラーリに加入したジルは、当初は荒削りでクラッシュも多く、起用を疑問視する声も多かったが、シーズンを通してメキメキと実力をつけ、デビューから1年足らずながら、この地元カナダで劇的な初優勝を飾る。
 これが、ヒーロー誕生の瞬間であった。

 翌'79年はフェラーリ絶好調の年。
 ジルはジョディ・シェクターに続くランキング2位を得たが、'80年、'81年はシャシー技術の遅れから大苦戦を強いられる。
 '82年、ようやく勝てるマシンを得たジルはしかし、ゾルダーでのベルギーGP予選で、チームメートのディディエ・ピローニとの確執を残したまま地元カナダGPを迎えることなく事故でこの世を去ってしまった。

 そしてやってきた、ヒーロー亡き'82年のカナダGP。サーキットは"ジル・ヴィルヌーブ"の名が冠せられた。
 ポールポジションを獲得したのは、そのピローニだった。
 その予選後の記者会見でピローニは突如、
「もしジルが生きていたなら、この座を得ていたのは彼だっただろう。」
と言って泣き崩れた。
 サンマリノGPでチームオーダーを無視し、ジルを裏切ってしまったピローニ。まるでファミリーのようであった彼らの友情も終焉し、そして間もなくジルは逝ってしまったわけであるが、それによって最も心を痛めていたのも、ピローニ自身であったのだ。

 だがその決勝、皮肉にもその彼が事故に巻き込まれる。スタートでストールした彼に、新人のリカルド・パレッティが激しく追突し、炎上。脱出したピローニには怪我もなく済んだが、パレッティは死亡。
 この年グランプリが出してしまった二人目の死者である。

 ここからは余談になるが、この後ピローニにはさらに、ジルの呪いがごとく大きな事故が起こってしまうのである。
 ついにこの年のランキングトップに踊り出ていたドイツGPの予選。豪雨の中でトップタイムをたたき出したピローニはその直後、同郷の親友アラン・プロストに追突し、大クラッシュ。
 両足を複雑骨折した彼のドライバー生命はここで途絶え、チャンピオンの座もわずか3ポイント差でケケ・ロズベルグに奪われていった。


* * * なぜか多い遅咲き初優勝 * * *

 さて、このグランプリでは、混乱の中で遅咲きの初優勝が生まれた例が二度もある。'89年95戦目のブーツェン、'95年91戦目のアレジだ。ともに、終盤にトップのドライバー...セナがエンジントラブル、シューマッハがギヤトラブルに見舞われてリタイヤもしくは後退し、得られた勝利だ。混乱の多いモントリオールだからこそ、こうした事態が発生したのだ。

 今回、筆者がひそかに期待していたのは、120戦未勝利のバリッケロの初優勝だった。だが、それはここ12戦ポール奪取者優勝なしのジンクスとともに、シューマッハが打ち砕いて行ったのだった。


2.レース・レビュー

* * * スタート 〜 大きく分かれた明暗 * * *

 さて、そのレースレビューに移ろう。
 クルサードと激しいポール争いを最後の最後で見事に制したのはシューマッハだった。もはやフェラーリのマシンはマクラーレンと同等以上の素晴らしい実力を備えてしまった。

 逆に、ディフェンディングチャンピオン、ハッキネンはどうにもタイムが伸びず、バリッケロにも後れをとり、4番手だった。



start


 迎えた決勝。
 ポールのシューマッハ、2番手のクルサードは順当にスタート。
 その後ろではハッキネンがダッシュを見せバリッケロをパス。だが、1コーナーであまりに早くブレーキを踏んでしまった彼は、5番グリッドから同じく良いスタートを切ったヴィルヌーブに並ばれ、2コーナーで彼とバリッケロに抜かれ、5番手にまで落ちてしまった。



M.S. & D.C.


 明らかにペースの劣るヴィルヌーブが前に出たことで、レースは完全に二分化された。シューマッハとクルサードがハイペースで逃げ、バリッケロ、ハッキネンは完全にBARマシンに抑え込まれてしまったのだ。
 それでもクルサードはシューマッハに離されることなくついていき、いつもの楽勝ペースには持ち込ませていない。



 一方そのすぐ後ろで目覚ましい走りを見せていたのがアロウズのデ・ラ・ロサだ。ジョーダン無限勢を立て続けにパスして、たちまちハッキネンのテールに食らいついてきた。
 だが残念ながら彼はレース後半の混乱で順位を落とすと、最後はザウバーのディニスと接触してレースを終えてしまった。

 ここでクルサードにペナルティが出た。
 クルサードはフォーメーションラップに出る際、エンジンストールし、チームクルーによって再スタートしていたのだが、この時、クルーがマシンに触れてしまったことがペナルティの対象となった。
 ...痛恨のミス。
 クルサードは10位に後退し、完全に脱落。シューマッハは余裕のトップ独走に転じ、ヴィルヌーブは父の名の冠せられたサーキットで2位に浮上した。


* * * 中盤戦 〜 レースを決したタイヤ交換と雨のタイミング * * *

 2位で踏ん張るヴィルヌーブ。
 だが、いよいよ焦れてきたバリッケロがしかけた。サイド・バイ・サイドのまま、二台が駆け抜けていく。しかし、ヴィルヌーブが抑えた。見事!
 ...と思ったのも束の間、ピットヘアピンでインをついたバリッケロはようやくヴィルヌーブを攻略。フェラーリは1-2フォーメーションだ。

 一方、この時点でわずかに離されていたハッキネンはこの攻防につけこむことができず、ヴィルヌーブ攻略にはさらに時間を要することになってしまう。
 ここにも結果に大きく影響した明暗があったと言える。

 さて、独走するシューマッハは周回後れに引っ掛かったところで、迷いなく早めのタイヤ交換&給油に向った。
 悠々とピットアウトしたシューマッハはバリッケロの後ろで戻る。その後方でハッキネンはようやくヴィルヌーブを1コーナーで料理。3位に上がるが、それでもシューマッハの後ろである。

 さらに、燃料が減ってハイペースで追い上げ始めたハッキネンの前に、給油を済ませたシューマッハが立ちはだかる。
 これではペースを上げられない!

 だが、ここでまたリザルトに大きな影響を与える出来事が起こった。予報にはなかった雨が落ちてきたのだ。もしこれが本降りになってきたならレースの様相はガラッと変わる!

 しかし、ハッキネンはシューマッハの後ろにつくのを嫌ってルーティンピットに入る。当然、ドライタイヤである。直後、トップのバリッケロもルーティンピットを済ませた。

 ところが、ここから雨は急激に強くなっていった。

 これにいち早く反応したのは、筆者が見ていた限り、フィジケラだ。
 ヴィルヌーブがドライに交換しているのを尻目にレインタイヤに履き替えて飛び出して行った。ルーティンピットとレイン交換を合わせこんだのだ。
 直後、シューマッハもピットインし、レインに交換。
 バリッケロも続いて飛び込むが、タイヤが用意されておらず、大きくタイムをロスしてしまう。

 しかしながら、バリッケロは結果的には大正解であった。
 なぜなら、ここでピットインしなかったハッキネンはドライ時の20秒以上もの遅いラップを2周続けて刻んでしまい、ルーティンピットとレイン交換を合わせたフィジケラに3位の座をプレゼントしてしまったのだから。

 ヴィルヌーブにとっても最悪のタイミングだった。フィジケラと同じタイミングでピットインしながら、再びレイン交換のためにピットイン。これで序盤戦のヒーローは10位にまで転落してしまったのだった。


* * * 終盤戦 〜 躍進のフェルスタッペン * * *


Verstappen


 完全なレインレースとなってしまった終盤戦。目覚ましい動きを見せたのはアロウズのフェルスタッペンだ。
 序盤はチームメートのデ・ラ・ロサが目立っていたが、彼のリタイヤ後、それを受け継ぐかのように快進撃を開始した。



 1コーナーでブルツとともにコースアウトしてしまったフェルスタッペンだが、その際抜かれたラルフを、その周の最終コーナーですぐさま抜き返すと、数周後にはブルツを2コーナーでパス。
 さらにはセントローレンスシーウェイに出るところでジョーダンのトゥルーリもかわし、5位に上昇。見事な活躍だ。今年のアロウズA22は実にシャープな動きをする。
 サッカーEURO2000のオランダ代表を応援するべくオレンジ色のヘルメットを今回限り被っているフェルスタッペン。そのオランダ同様の活躍だ。

 さて、雨の中、6位のトゥルーリを先頭に5台が団子状態になっていた。
 その最後方についたヴィルヌーブが最後の勝負に出た。ピットヘアピンで9位のクルサードのインに飛び込んで行く。
 ...ところが、止まれない!
 クルサードの横を通過したヴィルヌーブのマシンはモナコでの裂傷をおして出走していたラルフのマシンに激突し、二台はリタイヤした(完走扱い)。

 一方、ハッキネンも最後の抵抗を見せていた。
 1秒以上上回るペースでフィジケラを追い詰めて行く。しかし、結局抜くには至らず、フィジケラが4年連続となるカナダでの表彰台をゲットした。

 後方ではクルサードが7位ブルツを1コーナーで接触しながらも抜いて行った。(テレビ中継では完全にハッキネンとフィジケラだと勘違いしていたが (^^;)そしてファイナルラップには6位のトゥルーリに襲いかかったが、こちらも届かず、入賞することは叶わなかった。



Schumacher


 さて、全く対照的なゴールを迎えたのはフェラーリだ。
 悠々とトップを行くシューマッハは最後はすぐ後ろにバリッケロを従え、ゴール。フェラーリは開幕戦以来の1-2フィニッシュを飾った。




3.総括

 ますます際立ったフェラーリの強さ。ドライの段階から磐石ではあったが、雨というアクシデントによって、マクラーレンとの差はさらに広がって行った。
 これまでの柔軟性に加え、マクラーレンと同等以上のマシンを得た今、シューマッハは無敵だ。

 一方際立ったのはマクラーレン勢の固さである。
 全ての条件が揃えば、素晴らしく速い。しかし、雨の降り始めなどの不安定な状況でのペースが圧倒的に遅いし、状況変化への対応もフェラーリに比べ明らかに1テンポ遅い。

 これまではナンバー1の実力のシャシーがあるから勝ってこれた。だが、今やシャシーの能力ではフェラーリに並ばれている。...いや、抜かれているかもしれない。
 これまでここ一番で発揮されてきたハッキネンの集中力も見られない。
 何か大きな変化が必要であるが、これだけ堅さの目立つマクラーレンでは、それすらも不可能に思える。
 マクラーレンの状況はかなり深刻であろう。

 次戦は再びヨーロッパに戻り、マニクールでのフランスGPである。これまた雨による波瀾が多いグランプリであるが、このレースでマクラーレンは柔軟なレース運びができるであろうか。




Result
1 M.Schumacher Ferrari 1:41'12.313
2 R.Barrichello Ferrari +0.174
3 G.Fisichella Benetton Playlife +15.365
4 M.Hakkinen McLaren Mercedes +18.561
5 J.Verstappen Arrows Supertec +52.208
6 J.Trulli Jordan Mugen-Honda +1'01.687
7 D.Coulthard McLaren Mercedes +1'02.212
8 R.Zonta Bar Honda +1'10.455
9 A.Wurz Benetton Playlife +1'19.899
10 P.Diniz Sauber Petronas +1'54.544
11 J.Button Williams BMW -1lap
12 G.Mazzacane Minardi Fondmetal -1lap
13 E.Irvine Jaguar -3laps
14 R.Schumacher Williams BMW -5laps (Accident)
15 J.Villeneuve BAR Honda -5laps (Accident)
16 M.Gene Minardi Fondmetal -5laps (Accident)
- DNF -

P.De La Rosa Arrows Supertec 48laps (Accident)

M.Salo Sauber Petronas 42laps (Engine)

J.Alesi Prost Peugeot 38laps (Engine)

N.Heidfeld Prost Peugeot 34laps (Engine)

H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda 32laps (Brake)

J.Herbert Jaguar 14laps (Transmission)

Fastest Lap : M.Hakkinen (McLaren Mercedes) 1'19.049

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 56 1 Ferrari 84
2 D.Coulthard 34 2 McLaren Mercedes 66
3 M.Hakkinen 32 3 Benetton Playlife 18
4 R.Barrichello 28 4 Williams BMW 15
5 G.Fisichella 18 5 Jordan Mugen-Honda 10
6 R.Schumacher 12 6 BAR Honda 6
7 H-H. Frentzen 5 7 Jaguar 3

J.Villeneuve 5
Sauber Petronas 3

J.Trulli 5
Arrows Supertec 3
10 E.Irvine 3

J.Button 3

M.Salo 3
13 J.Verstappen 2
14 R.Zonta 1

P.De La Rosa 1


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