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2000 Round.7
Monaco
4th.Jun.2000

Monaco
Monte Carlo
Monte Carlo



1. モナコグランプリ・ヒストリー

 今年もやってきた伝統の一戦、モナコGP。特別な世界であるF-1の中でも、さらに別格の扱いなのがこのモナコGPだ。

 美しい地中海と荘厳さを感じる街並み。高級マンションやクルーザーの上から観戦する人々の優雅な佇まい。
 それとはまるで対照的に、狭く、安全基準からも逸脱した厳しいコースはほぼコース全域にわたってガードレースに囲われ、ドライバー達から優雅な風景は全くと言って見えない。ピットも戦場のように狭く、ドライバーとスタッフは、普段以上の厳しい戦いを強いられているのだ。
 このコントラストと渾沌(こんとん)こそが、他のレースにない、F-1の強烈な魅力の一つである思う。

 このモンテカルロのコースでレースが開始されたのは、F-1世界選手権の始まった'50年よりもずっと早い'29年のことだ。驚くべきことに、当時よりコースレイアウトはほとんど変更されていない。

 モナコGPと言えば、"F"というマンガのクライマックスで主人公のマシンがガードレールに激突し、地中海に飛び込むシーンがあり、「そんなバカなことがあるか」と思った人もいるかもしれない。
 だがこれは昔、実際に起こったことだ。
 フェラーリで'52〜53年にかけて不滅の9連勝を達成し、二年連続のチャンピオンを飾ったアルベルト・アスカリが'55年、アクシデントにより、海に落ちてしまったのだ。
 それ以来、モナコGPでは常に海にはダイバーが待機しているのだ。

 この時アスカリは「一応息継ぎの仕方は知っているからね」という名言(?)を残し、自力で岸に泳ぎつき無事であった。
 だが、とにかくモナコGPは深刻なアクシデントと背中合わせだ。特にヌーベルシケインは鬼門である。ロレンツォ・バンディーニが死亡した'67年の炎上事故。脳にダメージを受けた'94年のカール・ヴェンドリンガーの事故。
 今回ここで大きな事故がなかったのは幸いであった。

 モナコマイスターと言えば、グラハム・ヒルであり、アイルトン・セナである。だが、今回はモナコGP語り種のレースとして、'61年を挙げておこう。

 この年のチャンピオンを獲得したのは、パワフルな1.5リッターV6エンジンを搭載した「シャークノーズ」フェラーリ156を駆るフィル・ヒルであった。

 だが、このレースをリードしたのはロブ・ウォーカーのプライベーターロータスで参戦していた初代「無冠の帝王」スターリング・モス。モスは非力なロータス・クライマックス18のハンディを補うべく、なんとマシンのサイドパネルを外して走っていた。つまり、横から彼の足が見える状態のマシンである。
 フェラーリワークスのヒル、ダン・ガーニー、ウォルフガング・フォン・トリップスの3人は自転車レースのごとく順位を入れ替えてモスに対して波状攻撃をかけた。
 だが、モスは全く怯むことなくこれらを撃退し、見事に優勝を飾ってみせたのだ。モスの集中力を保った素晴らしい走りだからこそ達成できた勝利である。

 余談であるが、モスはその後ニュルブルクリンクでのドイツGPでも同じ展開で優勝を手中におさめ、母国勝利を狙ったフォン・トリップスの夢を打ち砕いた。
 そしてトリップスはチャンピオンがかかった翌戦のモンツァにおいてF-1史上最悪という事故で、観客14人とともに命を落としてしまう。そしてドイツ人初のチャンピオンは33年後...ミハエル・シューマッハまで待たなくてはならなかった。

 モンテカルロはよほどマシンの速さに差があるか、前車にミスがない限り、追い越しは不可能である。しかし、だからこそ逆にこうしたドラマが発生しうる。'92年、独走していたナイジェル・マンセルの突然のピットインから発生したセナとの刺激的な7周のバトルは鮮烈な記憶となっている。


2. レース・レビュー

* * * 番狂わせの予選 * * *

 狭い狭いモンテカルロ。追い越しが難しいこのサーキットでは、当然、予選のグリッドが非常に重要になる。フロントロー以外のドライバーが勝つ可能性は非常に低い。

 しかし、その予選は番狂わせ気味であった。ポールポジションを獲得したシューマッハの走りは、今年の彼の充実ぶりを示す素晴らしいラップで順当であったが、2, 4番手に、トゥルーリ、フレンツェンのジョーダン勢が躍進したのだ。
 昨年から、比較的高速コースでの速さばかりが目立っていたジョーダンだが、このモナコでの速さは、チームの技術水準が相当上がってきたことの証明でもある。それだけに、マイク・ガスコインを失った今後はどうなるか?

 一方、ハッキネンはクリアラップに恵まれず、5番手。クリアラップをとるタイミングを嗅ぎ分けるのもトップドライバーの能力の一つではあるのだが、アタックに出る度に黄旗に邪魔された今回のハッキネンは非常に不運であったと言える。


* * * 3度のフォーメーションラップ 〜 順当なスタート * * *



formation rap


 レースは、ブルツのエンジンストールでスタートディレイ、さらに、二度目のスタートも、タイム計測のシステムの不具合から赤旗で再スタートとなる。直後、デ・ラ・ロサとバトンが絡み、後方数台のマシンがその場で立ち往生することになってしまった。これでTカーのないロサはスタートできなくなった。
 ここでもハッキネンは不運であった。ローズヘアピンでフレンツェンをパスしていたのだが、赤旗でチャラになった。



 2度目のスタートではグリッド順に順当な隊列となったため、クルサードはトゥルーリに、ハッキネンはフレンツェンにそれぞれ抑え込まれる展開になってしまう。全く抜けないこのモンテカルロならではの展開だ。シューマッハは悠々と独走体制を築き上げていく。



Alesi


 このモナコで真価を発揮していたのがベテラン、アレジだ。
 '90年、非力なティレル019で、マクラーレンのベルガーとバトルの末、見事に2位表彰台を獲得した彼であるが、完成度の低い今年のプロストAP03で7番グリッドを獲得し、レースでもその位置をキープしていた。
 だが、レースの序盤の段階でヌーベルシケインの先でゆるゆるとストップ。またしても油圧系のトラブルであろうか?




* * * 混迷の中盤戦 〜 大本命のリタイヤ * * *

 中盤に入ってレースはにわかに混乱の色を深めつつあった。
 ハッキネンがブレーキトラブルを起こしてスローダウンし、ピットで修復する羽目になる。これでハッキネンは完全にトップグループから脱落。
 直後、今度は2位を快走していたトゥルーリがスローダウン。ピットでリタイヤしてしまった。

 そして、この頃1コーナー、サン・デポテがこのレースでの鬼門になりつつあった。
 サポートレースでクラッシュしたマシンが吐いたオイルを処理をする際に石灰が捲かれていたのだが、それが多くのドライバーのスピンを誘発していたのだ。
 序盤からブルツ、マッツァカーネ、ディニスらがクラッシュしたが、レース中盤、ピットアウトしてきたハッキネンを避けようとしたラルフ・シューマッハがクラッシュし、足から出血する怪我を負ってしまった。担架で運ばれた彼の容態が心配されたが、骨折はなく、裂傷のみで済んだようだ。
 その後もBARのゾンタが同じようにクラッシュしてリタイヤしている。

 さらに、大波乱にサーキットがどよめく。
 トップ独走のシューマッハの左リヤサスペンションが曲がり、スローダウン、ピットに戻ってリタイヤとなってしまったのだ。
 彼によると、上面排気のトラブルによるものだそうだ。彼を襲った、今シーズン初めてのマシントラブルである。


* * * 耐えた者のみに与えられた美酒 * * *

 フロントローの二人が消え、労せずトップに立ったのは、クルサードであった。フレンツェンに大きな差をつけ、余裕でトップを快走する。
 と、今度はそのフレンツェンが今回鬼門のサン・デポテの餌食となる。残りわずかなこの段階での2位から陥落はあまりに痛すぎる。

 上位陣の脱落で6位にまで上がってきたハッキネンは1ポイントでも多く得るべく、5位のサロに襲いかかる。だが、今度はギヤトラブルに見舞われたハッキネンはペースダウン。この順位に甘んじざるを得なかった。



podeum


 結局、このままの隊列でゴール。
 2位は、スタートで遅れたが、着実に走ったバリッケロ。
 同様にミスのない走りを展開したフィジケラが殊勲の3位表彰台。ルノーの傘下となったベネトンを一人で支えている。
 4位はジャガーチーム初ポイントとなるアーバイン。今回から投入されたプロスト風のスパッツやマクラーレン風のディフレクターなど、新たな空力パーツも功を奏したようである。




3. チャンピオンシップ展開

 波瀾の多かったこのモナコ。しかし、勝ったクルサードにとっては実に大きな勝利である。再びハッキネンをリードする展開になったからだ。
 来季はヴィルヌーブにシートを奪われるのでは?と言われる彼だけに、残留するにしても移籍するにしても、この展開は願ってもない。

 チャンピオン争いに関してシューマッハがハッキネンしか眼中にないような発言をしているだけに、そのハッキネンを抜いてシューマッハと12ポイント差に詰め寄ったクルサードが虚をついて彼を破る可能性も否定できない。

 だが、やはりシューマッハにとって最も恐ろしいのはハッキネンであるということに違いはない。彼にとってはこのグランプリ、大きく失ったものはないと言って良い。
 逆にハッキネンは全ての歯車が噛み合っていない。ますます、シューマッハ中心の展開に持ち込まれつつあるようだ。

 次戦カナダGPは6/18。
 ストップ&ゴーが多くブレーキのきついサーキットで、毎年波瀾が多いこのレース。再び大波乱が起きるのであろうか?

Result
1 D.Coulthard McLaren Mercedes 1:49'28.213
2 R.Barrichello Ferrari +15.889
3 G.Fisichella Benetton Playlife +18.522
4 E.Irvine Jaguar +1'05.923
5 M.Salo Sauber Petronas +1'20.774
6 M.Hakkinen McLaren Mercedes -1lap
7 J.Villeneuve BAR Honda -1lap
8 N.Heidfeld Prost Peugeot -1lap
9 J.Herbert Jaguar -2laps
10 H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda -8laps (Crush)
- DNF -

J.Verstappen Arrows Supertec 60laps (Crush)

M.Schumacher Ferrari 55laps (Suspension)

R.Zonta Bar Honda 48laps (Crush)

R.Schumacher Williams BMW 37laps (Crush)

J.Trulli Jordan Mugen-Honda 36laps (Gearbox)

P.Diniz Sauber Petronas 30laps (Crush)

J.Alesi Prost Peugeot 29laps (Hydraulic)

G.Mazzacane Minardi Fondmetal 22laps (Crush)

M.Gene Minardi Fondmetal 21laps (Trouble)

A.Wurz Benetton Playlife 18laps (Crush)

J.Button Williams BMW 16laps (Trouble)
- DNS -

P.De La Rosa Arrows Supertec

Fastest Lap : M.Hakkinen (McLaren Mercedes) 1'21.571

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 46 1 Ferrari 68
2 D.Coulthard 34 2 McLaren Mercedes 63
3 M.Hakkinen 29 3 Williams BMW 15
4 R.Barrichello 22 4 Benetton Playlife 14
5 G.Fisichella 14 5 Jordan Mugen-Honda 9
6 R.Schumacher 12 6 BAR Honda 6
7 H-H. Frentzen 5 7 Jaguar 3

J.Villeneuve 5
Sauber Petronas 3
9 J.Trulli 4 9 Arrows Supertec 1
10 E.Irvine 3

J.Button 3

M.Salo 3
13 R.Zonta 1

P.De La Rosa 1


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