Vol.9: "Can I eat Fly-By-Wire!?"
(written on 21st.Mar.1998)
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 さて、前回はセミオートマチックトランスミッションについてでしたが、今回はさらに最新のトレンドを追って、フライ・バイ・ワイヤについてです。

  前回少し触れたように、F-1にこの技術を最初に持ち込んだのは'92年、マクラーレンMP4/7Aでした。当時コンビを組んでいたホンダとの共同開発で、当初からかなりの完成度を誇っていました(実戦ではアクティブサスのウィリアムズにコテンパンにやられてましたが (^^;)。
 その後、現在ではセミオートマ同様F-1マシンの標準装備にまでなっています。

 ちなみに、マクラーレンがセミオートマと一緒にこれを導入したため、フライ・バイ・ワイヤとセミオートマを混同している方も多いでしょうが、フライ・バイ・ワイヤはトランスミッションに影響は与えますが、フライ・バイ・ワイヤ自体がセミ・オートマを指すわけではありません。

 で、フライ・バイ・ワイヤはもともと航空用語でした。ですから、「フライ」なのです。食い物ではありません...(駄目だこりゃ (-_-ゞ)。ちゃんとF-1に対応して、「ドライブ・バイ・ワイヤ」と記述される場合もありますね。
 ところで、フライ・バイ・ワイヤを最初に搭載した航空機はあの超音速旅客機コンコルドなのだそうです。

 で、このフライ・バイ・ワイヤ、結局どういう仕組みなんでしょ?
 まず、従来の飛行機は、パイロットが操作する操縦捍やペダルの動きを直接、機械的に尾翼や主翼に伝えて動かしていました。
 ところが、フライ・バイ・ワイヤでは一旦電気信号に変換し、それをコンピュータが解析して電線(ワイヤ)で各油圧アクチュエータに伝え、尾翼などの動きの制御をしているのです。
 結局、何が嬉しいかというと、コンピュータが介在する事で、状況に応じた最適なコントロールをすることができ、さらに、エンジンの制御コンピュータとの連携で効率もアップさせるメリットがあります。

 結局、F-1でこれをどう応用するかというと、アクセルペダルです。

 そもそもアクセルペダルってなに?

 はいはい。アクセルを踏めば車が進むって言うのは小学生でも知ってますよね?でも、具体的に何やっているかは、意外に答えられない方も多いでしょう。
 アクセルペダルは、エンジンへ送り込む空気の量を調整しているのです。もっと専門用語を使っちゃうと、「スロットルの開度をコントロールしている」と言えば良いでしょうか?

 単純に言ってエンジンは、空気と燃料を混ぜて燃やしてパワーを得ています。ですからこの、燃料と混ぜる空気を減らしてやればエンジンのパワーを減らす事ができるというわけです。
 エンジンの吸気系には「スロットル」という弁がありまして、アクセルペダルはその弁の開き具合を調整しているわけなんですね。
 F-1の場合、このアクセルペダルの10cmかそこらの前後の足の動きで800馬力ものパワーをコントロールしなければならないと考えると、いかにアクセルコントロールが難しく、繊細なセンスを必要とされる操作なのかがわかるでしょう。

 あのセナの得意技と言われた「セナ足」とは、このアクセルワークを指して言うわけですね。コーナーの立ち上がりで、ホイールスピンが起きないように小刻みにアクセルを煽って、うまくトラクションをコントロールしていたんですね。

 さて、従来のアクセルペダルっていうのは、このアクセルの動きがケーブルで直接スロットルへ伝えられていました。ですから、途中にカムなどを挟み込む事である程度は変わるにしても、基本的にはアクセルの踏み込み具合とエンジンのスロットルの開き具合は比例していました。

 しかし、実際の走行において、アクセルによってエンジンパワーを微妙に変化させる必要があるのはコーナーリングの時であり、つまりはエンジンの低回転域に集中しているわけです。
 ところが、高速回転域を使う直線などではアクセルは踏みっぱなしで、微妙なコントロールは必要ありません。

 ここにフライ・バイ・ワイヤのメリットがあります。

 つまり、フライ・バイ・ワイヤならばアクセルの動きを直接スロットルに伝えず、電気信号として取り出し、コンピュータが介在させるため、スロットルの開き具合を数値で直接操作する事が可能です。
 つまり、アクセルの踏み込み10cmそこそこの中で、スロットルの感度を変えてしまうという事が可能なわけです(これを「マッピング」と言ったりします)。そうする事で、コーナーリングでの微妙なアクセルコントロールができるようになったわけです。

 これはドライバーに対するメリットだけではないことに注意して下さい。扱いやすくなると言う事は、これまで扱いやすさのために妥協していた部分を全てエンジンパワーアップの方向に注げると言う事を意味しているんです!

 それから、天候などの変化に対しても、このマッピングを変える事で、コンピューター上の操作ひとつでエンジンを全く別の性格のようにしてしまうことも可能なわけです。

 また、ハイテク禁止となった'94年よりも前はエンジンの回転数をコンピュータにフィードバックすることが禁止されていなかったので、アクセルの動きを、スロットルの開度ではなくて、エンジンの回転数に対応させる事も可能でした。
 つまり、より直接的にエンジンに対して欲しいパワーを要求できたわけです。スロットル開度の調整だけでは状況によっては欲しいパワーが得られない場合があったからです。

 さらに言えば、このフライ・バイ・ワイヤとセミオートマ、それにエンジンコントロールユニット(ECU)などを連携させる事によって、より動力系を包括的に、それぞれの状況を分析して最良のギヤチェンジなり、スロットル開度なりを適宜設定する事ができるわけです。

 さて、近年はトップチームのフライ・バイ・ワイヤの最新技術がずいぶん話題になっていますが、一体何が起こっているの?って方も多いでしょう。
 さ、これについて触れてみましょうか。

 実は'97年の途中から'94年で禁止されたエンジン回転数のフィードバックが再び許可されたのでした。これによってエンジンパワーを直接要求できるというメリットが復活したわけです。

 話が逸れますが、そもそもエンジン回転数のフィードバックには、エンジンパワーを直接要求できるというメリットの他にも、ホイールスピンを検知できるメリットがありました。
 つまり、「エンジンの回転数が急激に上がった場合(エンジンへの負荷が下がった場合)はスロットルを戻す」というプログラムひとつで、加速時のホイールスピンを抑えることができたのです。
 '92年や'93年のマクラーレンはこの方法でトラクションコントロールを実現していたようで、単純にエンジンの点火をカットする他チームとは一線を画していました。
 以上のように、トラクションコントロールになるということで、'94年に一旦は禁止されたものの、FIAはこのプログラムの検出方法に自信を持ち、エンジン回転数のフィードバックが許可されたのだといいます。

 で、'97年に話題になったフライ・バイ・ワイヤによるトラクションコントロールはこのシステムによるものでなくて、あらかじめ幾つかのマッピングをプログラムしておいて、それをドライバーがレース中に使い分けられるようにしてしまったようです。
 つまりドライバーはホイールスピンが起こる加速時にはアクセルを強く踏んでも急激にエンジンの回転数が上がらないマッピングを選ぶ事でホイールスピンを抑える事ができるようになったのです。
 これはフェラーリが去年の前半戦から投入していたという噂があり、マクラーレンからの要望でFIAが正式に許可したという経緯がありました。

 しかし、結局これもチーム間で意見の相違があったとかで正式に禁止になってしまいました。

Summaries of this issue

  1. アクセルの動きでケーブルで直接的にスロットル開度を調節していたものを、 アクセルの動きを電気信号で取り出して、コンピュータを介在させてワイヤ(電線)でエンジンの出力をコントロールするのが「フライ・バイ・ワイヤ」である。

  2. 高速回転域と低速回転域でスロットルの開き具合の設定を自在に変更可能になり、よりピーキーだが高出力のエンジンの開発が可能になる。また、セッティングの変更もより簡単に、フレキシブルに行なえる。

  3. 他のデバイスのコンピュータとの連携でより包括的な動力系のコントロールが可能である。

  4. これまでに、フライ・バイ・ワイヤを応用したトラクションコントロールが幾つか考案され、その度に話題になった。


 こんなところでしょうか?

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