Vol.1: Abnormality of F-1
(written on 6th.Sep.1997)
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 どんなにF-1初心者の方でもF-1マシンが一般車とはまるで別物の異常な車であるということはお解りだと思います。
「でも、具体的にはどこがどう異常なわけ?」
「う〜〜〜ん (-_-ゞ」

....はい、じゃあ、具体的に見てみましょう。

 基本的にごくごく一般な「一般車」とは、速さ、乗り心地の良さ、燃費の良さなどの要素をいかに高次元で融合するかが開発のテーマであると言えます。
 ところが当然ながらF-1に限らずレーシングカーの場合は全ては「速さ」のための開発であるということが言えます。ドライバーにとっての乗り心地の良さよりもドライバーがいかに車の挙動を感じられるか。燃費が悪かろうが、うるさかろうが、いかにハイパワーを絞り出せるか。
 特にF-1マシンは各チームが各自独自に開発したもので、ハンドメイドカーだとも言えます。一つの車種は数台程度しか製作されず(チームによってはもっと少ない場合もある)、ほぼ毎年のようにフルモデルチェンジを行い、そしてグランプリ毎に改良が加えられています。0.001秒でも速くするためならば幾らでも金をつぎ込むのがF-1の世界なのです。

 しかもF-1は1レース距離にして300km強、時間にして2時間のスプリントレースです。全ての部品は2時間もてばいいようにして、とにかく速く、軽くを目的に作られていると言ってよいでしょう。端的な例がタイヤで、途中で交換するという戦術も相まって、今ではレースの半分、150kmだけ性能を発揮するような設計がされています。

 あまりの開発スピードの早さに、今ではシャシー(車体)とエンジンを両方製造しているのはフェラーリチームだけとなり、ウィリアムズやマクラーレンなどのチーム側がシャシーを作り、ルノーやメルセデスなどの大自動車メーカーがエンジンを供給している場合が殆どとなっています。また、当然タイヤも、グッドイヤー、ブリヂストンという大手タイヤメーカーが供給しています。

 もっと細かく見てみましょう。

 まず、F-1は一人しか乗っていない!まるで戦闘機のコクピットのように座っているようですね。このようにシングルシーターのレーシングカーを「フォーミュラ・カー」と呼ぶのです。

Formula Piramid

フォーミュラ・ピラミッド

 フォーミュラはF-1を頂点に、国際F3000やフォーミュラ・ニッポン、イギリスF3000などのいわゆるF3000シリーズ、更にその下に各国のF3シリーズ、更に下にFJ1600やフォーミュラ・フォード、フォーミュラ・オペルなどの入門カテゴリーがある、というピラミッド構造になっています。

 で、このピラミッドの頂点に位置するF-1は最も規則が軽く、最速のカテゴリーになっているというわけです。

 F-1の規則による最低重量は600kg(一般車の1/2近い)。にも関わらず、馬力は今や800馬力に届こうとしています(同、7〜8倍)。つまり、パワーウェイトレシオ(まさにパワーと重量の比のことです)が十数分の一であることがわかります。単純に考えればF-1の性能は一般車の十数倍であると考えることができますね。

 でもそんなに軽くてパワーがあったら飛んじゃったりしないの?....確かにそのままだったら簡単にふっ飛びます。いや、実際昔のF-1ドライバーはそんな不安定な車を腕っぷしで抑えて運転していたのです。しかし、現代のF-1マシンには前後についたてのようにウィングが取り付けてありますよね?原理については次回以降及び "U-N-C-H-I-K-U"の第一回に譲りますがあれこそがマシンを地面に押し付けているんです。

 F-1マシンの異常な点としてもう一つ挙げられるのがこのウィングなどの空気力学に関する研究です。
 一般車では燃費を良くし、風切り音を小さくするために、いかに空気抵抗を少なくするかが空気力学の最重要テーマであるといえます。
 しかし、速さを追求しているはずのF-1マシンは実は空気抵抗は一般車の数倍もあるんです。なにしろついたてのようにウィングが立ってるわ、タイヤはむき出しだわ、そりゃあ空気抵抗が少ないわけがありません。ならばなぜそうしているのか?
 なぜならばF-1の空気力学のテーマはいかにマシンを地面に押さえつけて安定させ、余りあるエンジンパワーを有効に路面に伝え、コーナーでの遠心力に耐えるようにするか、というところにあるからなのです。
 空気抵抗が減れば当然、最高速は伸びます。しかし、F-1カーというのは最高速を競うだけのものではなく、いかに曲がりくねったところを小回りよく走り抜けられるか、という性能が非常に重視されるからなのです。

 その結果、コーナーでもF-1マシンは飛び出すことなく安定して高速で走ることができるようになり、コーナーによっては遠心力により4G(その物体の質料の4倍の力がかかる)という強烈な横方向のGが発生することになりました。ドライバーは体重の4倍もの異常な横方向への力を受けながら、マシンをコントロールしなくてはならないんです。高性能なスポーツカー(スカイラインGTRとかスープラとか)で、高速道路を降りるときのランプ(螺旋状のカーブ)を思いっきりすっとばした時の横Gでさえも1G程度であるといえば、その物凄さはご理解いただけるでしょう。

 また、極限の性能を追求されたブレーキによる縦G(前後方向に発生する)も強烈で、これまた2G,3Gの世界であるといいます。なにしろコンマ数秒で300km/hを超えるスピードから50km/h程度まで減速できるほどのブレーキ性能なのですから。
 まさに縦に横に強烈な力を受けながら、ドライバーはレースを戦っているんですね。

 乗り心地についてももうちょっと掘り下げてみましょう。一般車ではいかに乗っている人に衝撃を与えないか、言ってみれば「車に乗っていることを感じさせないか」がポイントになります。ところがレーシングカーの場合は全く逆で、いかに車の挙動をドライバーが感じられるか、がポイントになります。
 よってサスペンションなどは思いっきり硬く(これは他の理由もあるのですが)、路面の凹凸の衝撃が直にドライバーに加わることになるのです。

 さて、エンジンの馬力のとんでもなさについては前半でも触れましたが、さらに驚くべきはその燃費です。一般車で燃費の優秀な車では1リットルあたり10〜20kmに達する車もあります。ところが最近のF-1マシンはなんと1リットルあたり1〜2kmと、同じ距離を走るのにほぼ10倍燃料を必要とすることがおわかりになるでしょう。パワーを絞り出すためにじゃんじゃん燃料燃やしてガンガンエンジン回そう、というわけです。もちろん、燃料をたくさん積めばその分重くなり、不利になりますから、ある程度の燃費の良さの確保は必要なのですが。

 さて、今回は第一回ということで、F-1マシンがいかにイッちゃってるものであるかということを語ってみました。F-1ドライバー達が、普段僕らの乗っている車とはまるで世界の違う「マシン」をドライブし、なおかつ他のドライバー達と戦っているのだ、ということをお解りいただけましたでしょうか?
 どんなに速くて安定したマシンに乗っていて、悠々と運転しているように見えるドライバーでも、その速さが故に加わる強烈な力と戦っているんです。

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