Vol.18: 1999 New Machines's Review (1)
- Latest Technical Fashion in BAR01 -

(written on 17th.Feb.1999, corrected on 8th.May.1999)
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 久しぶりの更新になってしまいましたが (-_-ゞ、今回から何回かに分けて、"1999 New Machines' Review"と題しまして、各チームのニューマシンの極私的レビューを行いたいと思います♪

 ではでは、今回は今年から施行されるレギュレーションについて触れた後、ラウンチ一番乗りのBAR01について細かくみながら、今年のトレンドについて細かく解説していく事にしましょう!


New Regulation

 さて、ニューマシンの話をする前に。今年から加えられるテクニカルレギュレーションについてお話ししておきましょうか。細けー部分は抜きにして、軽〜く、ね(自戒 (-_-ゞ)。

 まず、フロントタイヤの溝が3本から4本に増加した上に、タイヤのトレッド幅が5mm狭まって270mmとなります。これによってタイヤの設置面積は18%も縮まると言います。
 実際にはゴムの強度などの問題もあり、グリップダウンレベルは18%では済みません。これによって、昨年見られた、ホイールベース(*注1)を長くして重量配分を前方に移動し、フロントタイヤのグリップレベルを上げようという傾向がまた強まるかもしれませんね。

 あ、そうそう、一般にホイールベースを長くすると直進安定性が増すかわりに回頭性が悪くなると言われていますが、それはタイヤのグリップレベルが十分にある場合であって、パワーの方が有り余ってるF-1の場合はその限りではないんです。それよりも、多少ロングホイールベースでも、適切な重量バランスでタイヤの性能を引き出した方がむしろ回頭性は良くなります。
 これが昨年マクラーレンが火をつけたロングホイールベース流行の真実です!

 おおっと、やっぱり話が逸れてる(再び自戒 (-_-ゞ)。

 で、その他の変更は安全関係と、エレクトロニクス関係に大別できます。
 まず安全面では

  • フロントのクラッシュテストのインパクト速度が1m/s増えて13m/sに

  • クラッシュ時にホイールが飛散しないようにケブラーワイヤでアップライトとボディを固定

  • 冷却系の圧力を解放するバルブを義務化

  • ドライバーを固定して丸ごと取り外せるシートの義務化
    (スチュワートとLEARが共同開発したものですね)

  • 前後ロールバーを結ぶ線とドライバーの頭との距離が20mm増えて70mmに

  • よりクリーンな燃料

  • オイルの飛散を防ぐため、ブリーザをエンジンエアボックスに導く

 このあたりの安全関係レギュレーションは毎年精力的に加えられていますね。

 さて、問題はエレクトロニクス関係なんです。

  • フライバイワイヤによるエンジンマッピングは一つに固定
     これは簡単に言うと、コーナーによってエンジンの特性をエレクトロニクスの力で変化させる事で、スムースなコーナリングを行っていたシステムですね。

  • クラッチ操作とクラッチの動作は正比例に
     '98年のレースで度々見られたハッキネンの良いスタートはこのシステムのおかげでした。クラッチの操作を人間以上の速さで行う事で、爆発的なスタートをしていたわけです。

  • ドライバーによって変更を行える電子デファレンシャルシステムの禁止
     こちらは、電子デフを応用してトラクションコントロールやスムースなコーナリングを実現していたシステムですね。相当マクラーレンとフェラーリの間で論争の火花が散らされたポイントです。

 このように、エレクトロニクス関係の規制で、その方面で先端を行っていたトップチームは打撃を受ける事になったというわけです。

 さ〜て、これらのレギュレーションの変化は各チームのニューマシンにどんな影響を与えたのか!?早速ラウンチ順に各チームのマシンを見ていきましょう♪


British American Racing
BAR01

(lauched on 6th.Jan)

BAR01 launch

 まず先陣を切ったのは新チームBAR。
 レイナードのマルコム・オースラーの手によってデザインされ、12月中のテストで既に姿を現したこのマシンはごくごくスタンダートなマシンでした。全体的には多少無骨な印象。
 ふ〜ん、いくら金があるからって、やっぱりこんなもんだよなぁ...。

 モノコックの高さを徹底的に抑え、ホイールベースを長めにとる...。これはまさに昨年型マクラーレンMP4/13の作った大きなトレンドですね。
 そう、このBAR01を見ていくと、今年のデザイントレンドがほとんど盛り込まれている事がわかります。せっかくだからBAR01を見ながらそれらを解説していきましょうか!

 まず、ノーズの先端の高さは、しゃくりあげる事なく、あまり高くありません。
 しゃくりあげる形状だと車体の姿勢変化に空力が敏感になる傾向があるようで、最近ではノーズを高く上げていても、先端はしゃくりあげないチームがほとんどですよね。この方が見かけが上品で良い良い (^^;。


 で、良く見ると、ステアリングの動きによってフロントタイヤを操舵するタイロッドが上下サスペンションアームの真ん中に来ています。
 これまたMP4/13が先鞭をつけた方式なのですが、どのような狙いがあるのでしょう?
 これは当初はタイロッドを低い位置にする事でアッパーアームの位置を上げて空力効果を得るともに、ブレーキダクトの位置を上に置く事で、冷却効率を上げる目的だと思われていました(って言うか僕もそう思ってました (-_-ゞ)。が。
 本当はもっと'98年からのレギュレーションに密接に関係する理由があったのです。

tie-rod
フロントタイヤ操舵の仕組み
(模式図)

 フロントタイヤの操舵の仕組みに立ち返って考えてみましょう。
 まず、フロントタイヤはアップライト部分を軸にして左右に回転してマシンの進行方向を決定します。で、この回転軸からある距離離れた部分にタイロッドが接続され、押し引きすることでテコの原理でタイヤが左右に操舵されるわけですね。

 ところが、'98年の大幅なレギュレーションの変更から、ブリヂストンを先駆けとしてグッドイヤーも幅の広いフロントタイヤを採用してきました。ところが、レギュレーションによって全幅が削減されていますから、幅が広がった分は車体側に延びる事になりました。するとこれでは図のように、先程言ったタイヤの回転軸からタイロッドまでの距離(これをステアリングアームと呼びます)が十分にとれなくなってしまったのです。

tie-rod2
レギュレーション変更による
ステアリングアームの長さの変化

 これによってステアリングがますます重くなってしまうばかりでなく、タイロッドやアップライト部分にもこれまでよりもストレスがかかる結果となってしまったのです。

 これは単純そうでかなり複雑な問題です。タイヤが内側に入ってきた分、タイロッドの接続部分(アップライト)も内側にすればいい、と思うかも知れませんが、そうすると今度はサスペンションジオメトリーが大幅に変わってしまいます。

stearing-arm
ステアリングアームの長さの違い

 で、このサスペンションアームが短くなると言う現象は、左の図を見てもらえばわかるんですが、タイロッドが空気抵抗にならないようにフロントサスペンションのアッパーアームと同じ高さにしていたために起こっていたのです。
 じゃあ、ここで図のようにホイールのリムまでの距離が余裕のある真ん中あたりの高さにタイロッドを接続しちゃえばいいじゃん!とマクラーレンのアドリアン・ニューウィーは考えたわけです。

 これならば多少空気抵抗は増えるかもしれませんが、ステアリングは軽くなるし、中央部分に接続するため、アップライトの強度も強固になりますし、サスペンションのジオメトリーも理想に近付ける事が可能になります。
 これまで常識とされたアッパーアームと同じ高さ、というタイロッドの常識を覆し、現在のレギュレーションに最適な手法を見つけた点でも'98年型マクラーレンMP4/13は非常に評価されるべきマシンであることがわかるでしょう。

 しかし、後で触れる事になりますが、'99年型のMP4/14ではさっさとこれは廃止され、アッパーアームと同じ高さに戻してしまいました。なぜそれが可能になったか?恐らくマクラーレンは非常に高性能なパワーステアリングを開発して、上述のような問題を解決したからでしょう。


 ああっと、BARから随分離れてました (-_-ゞ。話を戻しましょう。
 ふんふん、そいでもってサスペンションアームも空力を考慮した扁平なアームになってますねぇ。

 おっと、さらにフロントノーズの上面を見ると、スッキリとしてデコボコがありません。
 先ほども言ったように去年からのコクピット内寸法規制によって、サスペンションの収まるスペースはかなり切迫され、例えば去年のスチュワートSF-02などはトーションバースプリング(*注2)がノーズの上に大きく飛び出していました。
 ところが、去年のフェラーリF300やマクラーレンMP4/13は、このBAR01のようなすっきりとした上面となっていました。

 よっし。それじゃあ、このフロントサスレイアウトの導入について細かく説明してみましょうか!

Williams FW19
ウィリアムズFW19の
フロントサスペンションの配置

 昨年までは、なるべくホイールベースを短くできるよう、フロントサスペンションはドライバーの足の上に置かれる事が普通で、トーションバータイプのサスペンションならば、トーションバーの円筒は立て、ダンパーを横に寝かせて使うのが王道中の王道でした。

 このレイアウトは'88年頃からフェラーリのプロトタイプ639やロータス100、ラルース・ローラ189などに採用されはじめ、狭いモノコックの中のスペースを有効に使うレイアウトとして、もう10年近くも定番として多くのマシンが採用してきたレイアウトだったのです。

McLaren MP4/13
マクラーレンMP4/13の
フロントサスペンションの配置

 ところが、フェラーリとマクラーレンはドライバーの足より前のモノコック内部にトーションバーを進行方向に寝かせ、ダンパーを立てて配置したのです。
 なぜこれまでの常識レイアウトを捨ててまでこんな新しいレイアウトをとることになったのでしょうか?また、なぜそれが成功したのでしょうか?

 これにはやはり、直接的にしろ間接的にしろ、レギュレーションが大きく関係していました。

 まず直接的には、モノコックの寸法規定が挙げられます。
 モノコックはドライバーが収まるコクピットでもあります。しかしながら、空力性能や捻り剛性を考えた場合、モノコックは極力小さくしたい。そこで、'80年代後半から'90年代前半までのモノコックはドライバーに非常に窮屈な思いをさせるほどの細みのモノコックのマシンで溢れていました。
 一応、コクピットの開口部やモノコック最小幅に関する規定はあったのですが、それでもあまりに小さなコクピットであるために、「ドライバーは5秒以内にコクピットから脱出できなくてはならない」という他の規定にひっかかってしまうドライバーも出ていました。

monocock
新旧モノコック寸法規定「〜'97」と「'98〜」

 しかし'96年になって、より安全に考慮したドライバープロテクションなどの導入とともに、よりドライバーの居住性を向上させるためにモノコック内部の細かな寸法が規制されたのです。左の図のようなプレートがモノコック内部を通過できなければならないというレギュレーションですね。
 それでも、やはりトーションバーをドライバーの足の上に置くのは有効なレイアウトでした。

 ところが'98年、さらにこの寸法は大きくなり、モノコックは大型化を強いられ、ドライバーの足の上にトーションバーを立てると、かなりモノコックの上に飛び出す形をとらざるを得なくなってしまったというわけなんです。

 一方で、ドライバーの足を守るために、ペダルよりも前には随分と広く空間を作る事が義務付けられました(具体的には、ペダルより前方30cmまでモノコックがなければならない)。

FW19 & MP4/13
ドライバーの着座位置と
フロントサスレイアウトの変化

 また、モノコック側面のクラッシュテストも厳しくなり、サイドポンツーンをドライバーの横まで延ばさざるを得なくなりました。しかし、空力のことを考えると、フロントから流れてくる空気を乱れなくリヤに流すためには、長くなったサイドポンツーンは邪魔です。そこで、マクラーレンはドライバーの着座位置を極端に下げる事で、サイドポンツーンも後退させる事に成功したのです。

 結果として、ドライバーの足の前方にはかなりの空間ができる事になりました。

 ここで頭のいいデザイナー、ニューウィー(マクラーレン)とバーン(フェラーリ)は思い付いたわけですねぇ。
 「なーんだ、ここにトーションバーを横に置けばいいんじゃん!」
 これは空いたスペースの有効活用になるだけでなく、モノコックの上部に穴を開けなければならなかったトーションバー縦置きレイアウトに比べ、モノコックの強度に与える影響も少ないという、魔法のレイアウトだったのです!

 というわけで、新チームであるBARも早速この革命的レイアウトをコピーしてきたというわけですね。


 あああ、話がBARから3光年くらい離れてたな...(めちゃくちゃ自戒 (-_-ゞ)。
 もう一回BARの写真を。よいしょ!

BAR01 sideview

 さぁて、気を取り直して他の部分も見ていきましょう!

 ふ〜む、フロントウィングはごくごく単純な形状で、面白味がないですねぇ。
 最近チームによっていろいろなバラエティが見られる翼端板にもなんの工夫も感じられませんねぇ。強いて言えば、フィンのようなものがくっついていますが、マクラーレンやフェラーリほど先進的なフロントウィングとは言い難いですね。

 さらにはディフレクター(*注3)もやはりマクラーレンを意識した大形のものですね。

 サイドポンツーンは角張って無骨な印象ですねぇ。
 先ほども言ったように、昨年からサイドインパクトテストが厳しくなった事もあり、どのチームもサイドポンツーンは長くとらざるを得なくなったのですが、それでもギリギリまで短くしようとすると、こんな突然線で引かれたように切り立った四角いサイドポンツーンになってしまうんですねぇ。

 え?なんで短くしたいかって?  ま、さっきもちょっと触れましたが、それはフロントからの空気を停滞させたくないからです。

CokeBottle
前方からの空気でディフューザの効率をアップ

 フロントからの空気を流速を保ったままボディ後端のディフューザ(*注4)の上方に押し込めばディフューザの空気を引き抜いてより大きなダウンフォースを得られるし、はたまた空気のぬけが良くなると、フロントウィングの効率まで上がるし、といいことづくめなのです。

 そこで、フロントからの空気の邪魔になるものは極力排斥して、空気をスムースに通してやりたい、長いサイドポンツーンは邪魔モノでしかないわけですね。(え〜っと、図の方はあくまで参考で、'80年代初期のものですからサイドポンツーンは長いです (^^;)

 コクピットのほうも、トレンドにそって、非常に低く設定しています。

 ドライバーの頭の後ろ、インダクションボックス(*注5)に目を移しましょう。
 ふ〜ん、ドライバーの頭から随分と分離して高いところに、楕円形の開口部があります。これは去年のジョーダン198にそっくりですね。これはもちろんドライバーのヘルメットが作る乱流を考慮した形状です。このへんの丸さは、BARのアイデンティティになってますね。
 でも、ちょっと開口部が小さすぎる気もするなぁ... (^^;。

 リヤのほうも非常にオーソドックス。
 フラットな平面を保ったままリヤウィングまで綺麗な空気を導くリヤカウル、リヤタイヤの前にサイドポンツーンの上面から延びたフィン、このあたりは、数年前からの基本形ですね。
 リヤウィングにもなんの特徴もなし。水平なフラップで、翼端板にも捻れなどはありませんね。

Diffuser
センターディフューザに空気を送り込み
サイドディフューザが斜めになっている
最先端トレンドなディフューザ

 ディフューザも、ステップドボトム側面を流れてきた空気をセンターの大きなディフューザに送り込む一般的な形状。昨年流行した斜めを向いたサイドディフューザも採用してませんねぇ...。
 う〜ん、いろいろ解説しがいのあったフロントに比べてつまらないな (^^;。

 ただ、こうして手堅〜くマシン造りをしたことはとりあえず功を奏したようで、今のところ深刻なトラブルもなく、テストでも上位のタイムを叩き出し、ジャック・ヴィルヌーブもマシンの素性の良さを口にしていますね。
 まー、でもこの特殊な世界であるF-1で優勝というのは、今年中は苦しいでしょうねぇ。ま、何度か表彰台に上がれればかなりの成果であったと言っておいた方がいいでしょう。上位チームはテストではなかなか手の内を見せてきませんしね。


 さてさて、'99年スタンダードマシンと思われるBAR01を教材に、今年のマシンのトレンドを追ってみましたが、いかがでしたでしょうか?
 こうして見ると、多くのトレンドがフロントに集中している事がわかりますねぇ。まあ、昨年の最強マシンのマクラーレンとフェラーリがフロント部分にかなり革新的なことをやってきたので、それに追従している、ということでしょうね。

 ってなわけで、次回からは他のチームのマシンについても、ラウンチ順に見ていこうかと思います。
 果たして開幕までに終わるのか (。_゜☆!?


*注1
 ホイールベースとは、前輪車軸と後輪車軸の距離のこと。一般には短い方が不安定だが回頭性が良くなり、長い方が安定するが曲がりにくくなると言われています。
 ...ほら、小型車の方がUターンしやすいでしょ?

*注2

coil spring
コイルスプリング
サスペンション

torsion bar spring
トーションバースプリング
サスペンション

 トーションバースプリングというのは、円筒状の金属を円周方向に捻る時の反発力をバネとして利用したスプリングのことです。

 一般にスプリングと言って思い浮かべるコイルスプリングと違うのは、強く押されるほど反発力が強くなると言う特性を持っている事、コイルスプリングよりも小型にできる事が挙げられます。
 さらには、筒を取り替えるだけでセッティングが変更できるというメリットがある事などから、最近のF-1では半ばスタンダードになりつつあります。

*注3
 ディフレクターとは、フロントタイヤの内側からサイドポンツーン前方あたりに設置された整流板の事で、フロントタイヤの発生した空気の渦を外側に追い出し、ボディ側面の空気流を整流する目的がある。

*注4
 ディフューザとは、車体後端底面に設けられた空力デバイスで、マシンの底を流れてきた空気を拡散させることでマシン底面に負圧を作り出し、ダウンフォースを得ている。

*注5
 インダクションポッドとは、エンジンに送る空気を取り入れる部分のこと。

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