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2001 Round.3
Brazilian
1st.Apr.2001

Brazil
Interlagos
Interlagos



1. ブラジルGP コースレビュー & ヒストリー

* * * 悲劇のヒーロー、カルロス・パーチェ * * *

 過去のブラジル人のF-1ヒーローと言えば、圧倒的な人気を誇るアイルトン・セナに、彼と同じ3回のタイトルを獲得したネルソン・ピケ、そして何と言っても、彼らの先駆けであるエマーソン・フィッティパルディらが挙げられよう。

 だが、このブラジルGPが「カルロス・パーチェ」の名を冠せられたサーキットで開催される以上、彼について触れないわけにはいかない。


 カルロス・パーチェは1972年、ウィリアムズがエントリーしたマーチからデビューした。その年は、同じブラジルのエマーソン・フィッティパルディがロータスに乗り、25歳で史上最年少チャンピオンを獲得した年でもあった。パーチェは27歳だった。
 しかし、プライベーターであるウィリアムズからの参戦ながら、初年度から2回の入賞を果たすなど才能を見せつけたパーチェは'74年半ばに、トップチームの一つであるブラバムに移籍するチャンスに恵まれる。

 ブラバムチームは、現在ではF-1の全てを牛耳っているバーニー・エクレストンが、創始者のジャック・ブラバムからチームの全権を譲り受けて間もない時期であった。
 エクレストンは新進気鋭のデザイナーであるゴードン・マーレイにマシン製作を任せた。後に「鬼才」として名を馳せることになるマーレイは非常にコンパクトで堅牢な「ピラミッドモノコック」を持つBT42という優秀なマシンを製作し、その期待に応えた。

 パーチェが移籍してきた頃には、マーレイのマシンはBT44という進化型となっており、非常に熟成された素晴らしいマシンになっていた。彼はいきなりトップドライバーの仲間入りを果たした。

 そして翌'75年、インテルラゴスサーキットで行われた地元ブラジルGPでパーチェは、同郷にして前年度チャンピオンのエマーソン・フィッティパルディとのバトルの末に、念願の初優勝を飾り、サーキットは興奮のるつぼと化した。彼はサーキットのあるサンパウロの出身であったのだ。


 ところが、翌'76年からアルファロメオエンジンに替えたチームは不振に陥る。だが、人柄が良いことでも知られた彼は、辛抱強くアルファエンジンの熟成に努力した。そして'77年の開幕戦アルゼンチンでは2位になるなど、ブラバムは確実にトップグループに復帰しつつあった。

 だが第3戦の後、悲劇は突然訪れた。彼と友人の乗せた軽飛行機は、チームスタッフの目の前で墜落し帰らぬ人となったのだ....。


 そして彼が生涯唯一の、しかし最高の勝利を挙げたインテルラゴスのサーキットは 、彼の死後「ホセ・カルロス・パーチェ・サーキット」の名が冠せられることになったのだ。


* * * ホセ・カルロス・パーチェ・サーキット * * *

 '80年代に一時リオ・デ・ジャネイロで行われていたF-1が再びインテルラゴスのサーキットに戻ってきたのは'90年のことだ。
 以前のインテルラゴスは8km近い複雑な形状をしたコースだったが、大きく改修された結果、長いストレートにインフィールドを持つ4.3kmのコースに生まれ変わった。

 ホームストレートは緩やかな最終コーナーと合わせ、長い全開区間となる。登りのきついエンジンパワーがモノをいうポイントで、1コーナーでは毎年多くのオーバーテークが見られる。

 しかしなんと言ってもこのインテルラゴスを特徴付けているのはあまりにもバンピーな路面だ。毎年ドライバーやチームから苦情が出るたびに、鋪装がやり直されるが、一向に良くなる気配がない。マシン自体に高いポテンシャルがなければ、この路面では高い性能を発揮することができない。

 それだけではなく、主催者側の体制にも常に不安が残る。昨年などは予選中にホームストレートの看板が落ちてアレジのマシンに直撃するなど、再三赤旗が出るハプニングがあった。
 今年も地元出身のバリッケロに「あそこのレースの運営はひどい」「仕方なく行くんだ」とまで言われてしまうほどだった。それほど稚拙な運営なのだろう。

 '72, '74年のチャンピオン、フィッティパルディの走りを見てピケやセナらの才能がF-1を目指し、そしてまた彼らチャンピオンの走りに憧れてバリッケロらが現れた。この素晴らしい歴史を誇る、ブラジル人F-1ドライバーの系譜を継ぐ若き才能の芽を絶やさないためにも、早急な改善が求められるところだ。


2.レース・レビュー

* * * 予選 〜 ウィリアムズ勢の台頭 * * *

 開幕2戦、完全にフェラーリに遅れをとったマクラーレンは、早速このブラジルに新しいフロントウィングを持ち込んだ。フェラーリ同様により中央部分が大きく湾曲したものである。だがフェラーリらとは違って、中央部分は依然として100mmの高さを保っているようで、むしろ翼端部分を高くしたように見える。
 どちらにしても、開幕以来フロントのダウンフォース不足に悩んでいたマクラーレン勢は好調に転じたようで、ここブラジルに入ってからはしっかりトップ争いをするタイムを記録していた。

 しかしそれでもやはり速いのはフェラーリだ。秀逸なリヤサスペンションは十分なトラクションを与え、特に曲がりくねったインフィールドセクションで抜群の速さを見せる。
 ヘルメットにブラジル国旗をあしらって気合いを入れた地元バリッケロはそれが空回りしたのか6番手に沈むが、シューマッハは圧倒的な速さを見せつけ7戦連続ポールの座についた。

 それ以上にセンセーショナルだったのはミシュランタイヤ勢のウィリアムズだった。コーナーの速いフェラーリ勢とは逆に、素晴らしいストレートスピードを見せた彼らは、フェラーリ、マクラーレンのトップ4を完全に切り崩し、ラルフがついにフロントローとなる2番グリッドを獲得。モントヤも予選開始早々にトラブルで止まりながらもスペアカーで4番手に食い込んでみせた。

 マクラーレン勢はこのあおりを喰う形で3、5番手に留まることになる。しかし、2位のラルフから6位バリッケロまでの5人はわずかに1秒差に収まっていることから、まさにウィリアムズがトップ2並の速さを身につけつつあると見るべきかもしれない。


* * * 前半戦 〜 大物ルーキー・モントヤ炸裂 * * *

 史上初となる兄弟フロントロー独占となったシューマッハ兄弟。世界最高峰のレースで兄弟によるトップ争いが展開されるのだろうか?

 しかし、レースはスタート前から波瀾含みだ。
 フォーメーションラップの前、ピットクローズまでのインストレーションラップにおいて、バリッケロがトラブルでストップ。急遽シューマッハ用のスペアカーで決勝に臨むことになってしまった。
 さらに、スタートでもハプニングが起こる。3番グリッドにつけたハッキネンに突然クラッチトラブルが襲い、エンジンがストールしてしまったのだ。なんとこれでハッキネンは開幕3戦でわずか1ポイント。昨年よりも深刻な開幕ダッシュの失敗である

 一方ミヒャエルは順当に飛び出してトップで1コーナーに飛び込む。だがラルフは遅れ、モントヤ、クルサード、トゥルーリにまでかわされ5位まで落ちた。

 ところが、トラブルでマシンを降りたハッキネンが、外したステアリングを元に戻さなかったためにマシンの撤去が遅れ、3戦連続のセーフティカー導入となってしまった。ハッキネンは5000ドルの罰金の憂き目にあった。


 セーフティカーランはわずかに1周で終わり、すぐにリスタートが切られた。ここで、2番手につけていたルーキー、モントヤがウィリアムズのトップスピードを生かして一挙にシューマッハにしかけた。さすがは、セーフティカーランが多いCARTの元チャンピオンである。



Juan overtakes Schumi


 思いきりブレーキを後らせたモントヤは1コーナーでアウトに膨らみながらシューマッハを押し出すような形で強引に前に出た。わずかに接触したが両者とも走行には問題ない。大物新人と言われるモントヤの面目躍如たるオーバーテイクである。



Rubens cruches to Ralf


 直後のバックストレートでも波瀾が起こる。トゥルーリのインをうかがっていたラルフに、ブレーキングの遅れたバリッケロが突っ込んでしまったのだ。
 地元バリッケロのレースはここで終了。ラルフも修復してレースには戻ったが、4周遅れとなってしまった。活躍が期待された二台だけに、実に残念なクラッシュとなってしまった。




* * * 中盤戦 〜 快走するモントヤ、そして暗転 * * *

 モントヤに前に出られてしまったシューマッハは苦しい展開になった。なぜなら、自分がトップで走ることを前提に、単純な速さでは最適と思われた2回のピットストップ作戦を組んでいたからだ。
 一方、モントヤと3位クルサードは1ストップ作戦と思われた。つまりシューマッハは、彼らと同じペースで走るほどに、1回多くピットストップする分、不利になっていくのは明らかだった。
 しかし、モントヤを抜くことができない。モントヤのウィリアムズがずば抜けてストレートが速いからだ。復帰2年目のBMWはかなりのパワーを発揮しているようだ。


 一方、予定外のタイヤ交換で順位を下げたヴィルヌーブを尻目に、チームメートのパニスが元気だ。15周目の1コーナーでフレンツェンのインに飛び込むと、5位へ浮上。さらには、21周目にトゥルーリをも捕らえ、4位へ進出する。


 依然としてトップ3台はじりじりとした展開が続く。結局シューマッハはモントヤを抜けないままに25周目に1度目のピットインに向かわなければならなかった。

 モントヤはクルサードとの差をじりじりと広げながらトップを快走していく。最も恐ろしいシューマッハは30秒も後方に下がった。トップ3とも、あと1回ずつのピットストップを残しているという条件は同じだ。モントヤの初優勝の可能性は周回を重ねるごとに高くなりつつ合った。



Jos cruches to Juan


 しかし。
 このレース唯一のピットストップを目前に控えていたモントヤは、周回遅れのフェルスタッペンをバックストレートで抜きにかかる。
 ところが、パスした直後、なんとそのフェルスタッペンに追突され、リタイヤしてしまったのだ。



 これでトップはクルサードに代わる。モントヤから離されつつあったとはいえ、シューマッハに対してアドバンテージを持っていることにはなんら変わりはない。
 満を辞して40周目に1度きりとなるはずのピットインを終えても、シューマッハの前でコースに戻る。まして、シューマッハはあと一度のピットインを控えているのだ。クルサードは圧倒的優位に立っていた。


* * * 終盤戦 〜 またしてもやってきたスコール * * *

 快調にトップを行くクルサード。
 しかし、このレースはこのままでは終わらなかった。わずかに降り続いていた雨が46周目、大粒の雨に変わったのだ。

 ここで真っ先にシューマッハがピットに飛び込んでインターミディエイトタイヤに交換する。
 ブリヂストンのインターミディエイトはドライとレインの中間的タイヤながら、素晴らしい排水性を誇っている。それをテストで真っ先に確認して、先のマレーシアGPの圧勝につなげたのはフェラーリだった。
 今回も、それを再現するかのような素晴らしい機転だ。

 一方、マクラーレンはまたしても動きが鈍い。同じタイミングでピットインしなかったクルサードはドライタイヤのまま、大粒の雨の中、スロー走行を強いられる。
 マレーシアGPを教訓に、彼らもインターミディエイトへ交換するが、ピットインが一周遅れたために、一気にシューマッハに逆転されてしまった。


 またしてもマレーシアの再現かと思われた刹那、だが、やはりこのレースはまだ終わっていなかった。
 トップに立ったその周回で、なんとあのレインマスター、シューマッハがハーフスピンを喫したのだ。無事にコースには留まったものの、クルサードに直後まで迫られてしまう。

 さらに、このレインコンディションの中、シューマッハにいつもの速さがない。



David overtakes Schumi


 そして、50周目の1コーナーで、周回遅れのマルケスをアウトから抜こうとしたシューマッハに対し、クルサードはインへ飛び込む。
 3台がなだれ込むようにエス・ド・セナを抜けると、先頭に立っていたのはクルサードだった。昨年のベルギーGPでのハッキネンのオーバーテイクを彷佛とさせる逆転劇であった。



 その後も、シューマッハの走りは精彩を欠き、コースアウトを喫す。これも再びコースには戻れたものの、勝負はついた。


 この混乱の中きっちり3位をキープしていたのがフレンツェンだ。ホンダワークス復帰後初の表彰台に向けて快走する。だが、ペースの上がらないチームメイトのトゥルーリはハイドフェルドにかわされていた。
 さらに残り7周というところで、フレンツェンも突如スローダウン。表彰台は指の間をすり抜けていった...。

 一方、冬のテストで好調だったプロストのマシンでアレジも6位をしぶとくキープしていた。だが、残り5周でついにベネトンのフィジケラにパスされて入賞圏外に去った。フェラーリのエンジンとギヤボックスで武装したとは言え、やはりプロストチームの力は依然高いレベルにはないようだ。
 ベネトンのマシンの方は、エンジンの冷却に苦慮して、リヤカウルは穴だらけの不様な姿だった。まだまだ苦しい状況。しかし、雨の中を辛抱強く走ったフィジケラの走りが入賞を呼び込んだ。

 残り4周、パニスは最後の最後でトゥルーリをかわして4位へ上がる。'97年プロスト・無限で見せた素晴らしい走りを彷佛とさせる力強さだ。



Podeum


 結局、クルサードがシューマッハに17秒の差をつけて悠々と優勝。昨シーズンから続くシューマッハの連勝を6で止めた。
 3位にはいつの間にかザウバーのハイドフェルド。見た目の派手さはないが、非常に安定した走りは、国際F3000時代からの定評通りだ。昨年の不振を一気に振払うかのような活躍だ。




3.NOBILES Eye

* * * マクラーレンの復調は本物か? * * *

 ようやく止まったシューマッハの連勝。それにしてもハーフスピンやコースアウトを繰り返しながらも2位に残るあたりはタイトル最右翼という印象に変わりはない。

 一方、マクラーレンはこのブラジルでずいぶんと不利を挽回した。
 しかし、依然マシンのアドバンテージはフェラーリ側にあるように思える。ハッキネンが3戦で1点というのも、コンストラクターズタイトルに向けて大きなハンディには違いない。

 マクラーレンのMP4/16の外観は非常に洗練されていて、高いポテンシャルを秘めているであろう、という筆者の見解はシーズン前から現在まで変わることはない。今後MP4/16の開発はどこまで進むのであろうか。
 TCSが解禁されても勢力図は変わらないと言う関係者も多い。だが、筆者はやはり、TCS解禁のスペインGPがターニングポイントになるような気がしている。マクラーレンは何かを残しているのでないか?そんな気がしてならない。


* * * 輝いた才能、モントヤ * * *

 惜しくもリタイヤしたモントヤ。しかし、中盤までトップを快走した走りは紛れもない本物だ。

 あの強引なオーバーテイクには賛否がある。だが、頂点を極める者にはあのような強引さも時には必要だ。ましてまだデビューしたての若者ならばだ。
 かつてミハエル・シューマッハも強引な走りでセナの説教を喰らったものだ。そしてそのセナも、露骨なブロックでラウダやアルボレートらに痛烈な非難を受けた。こうして歴史は繰り返すのだと筆者は思う。

 シューマッハもそれは理解しているのだろう。記者会見では「あのオーバーテイクに関しては何の問題もない」と語っていた。


* * * 繰り返された追突劇 * * *

 だが、今回起きた二回の追突劇は残念の極みだ。
 確かにレースに事故はつきものだ。それは過去も現在も変わりはない。また、マシン自体の変化の影響もあろう。
 しかし、それにしても以前に比べてドライバー同士の意思疎通が行われていないのでないだろうか?だから「ストレートでのライン変更は1回のみ」などというつまらない取り決めが行われてしまうのだ。

 もうかつてのようなドライバー同士が尊敬しあってレースをしていた時代は戻らないものなのだろうか?




Result
1 D.Coulthard McLaren Mercedes 1:39'00.384
2 M.Schumacher Ferrari +16.164
3 N.Heidfeld Sauber Petronas -1lap
4 O.Panis BAR Honda -1lap
5 J.Trulli Jordan Honda -1lap
6 G.Fisichella Benetton Renault -1lap
7 J.Villeneuve BAR Honda -1lap
8 J.Alesi Prost Acer -1lap
9 T.Marques European Minardi -3laps
10 J.Button Benetton Renault -7laps
11 H-H.Frentzen Jordan Honda -8laps
- DNF -

K.Raikkonen Sauber Petronas 55laps (spin off)

G.Mazzacane Prost Acer 54laps (clutch)

R.Schumacher Williams BMW 54laps (spin off)

E.Irvine Jaguar 52laps (spin off)

J-P.Montoya Williams BMW 38laps (accident)

J.Verstappen Arrows Asiatech 37laps (spin off)

L.Burti Jaguar 30laps (cooling)

F.Alonso European Minardi 25laps (throttle)

E.Bernoldi Arrows Asiatech 15laps (Hydroric)

R.Barrichello Ferrari 2laps (accident)

M.Hakkinen McLaren Mercedes 0lap (clutch)

Fastest Lap : R.Schumacher (Williams) 1'15.693 (38lap)

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Schumacher 26 1 Ferrari 36
2 D.Coulthard 20 2 McLaren Mercedes 21
3 R.Barrichello 10 3 Sauber Petronas 8
4 N.Heidfeld 7 4 Jordan Honda 7
5 H-H.Frentzen 5 5 BAR Honda 3
6 O.Panis 3 6 Williams BMW 2
7 R.Schumacher 2 7 Benetton Renault 1

J.Trulli 2
9 K.Raikkonen 1

M.Hakkinen 1

G.Fisichella 1


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