Vol.15: The heart of car -- Engine!! Part.2
(written on 4th.Apr.1999)
previous Next

 前回で、エンジンの分類と、今F-1エンジンで採用されている4サイクルレシプロエンジンのメカニズムについて説明しました。

 ちょっとポイントを復習してみましょうか。

Summaries of previous issue

  1. エンジンの中でも、自動車のものは燃焼による膨張する力を動力として取り出す内燃機関が主流である。

  2. ディーゼルエンジンは空気を圧縮し、そこに軽油を噴射するというシステムなので、複雑で重くなりがちなので、レーシングエンジンには向かない。

  3. ロータリーエンジンは膨張する力を直接回転運動に結び付けるため、メカニズムもシンプルで軽量コンパクトかつ高出力であるが、全く新しく大規模な投資が必要なこと、特許の問題などから普及するには至っていない。

  4. レシプロエンジンはピストンの往復運動をクランクによって回転動力として取り出すものである。

  5. 2サイクルレシプロエンジンは構造が簡単なうえ、1回転につき1回燃焼するため、小形・軽量でハイパワーであるが、吸入と排気を同時に行うために、燃費が悪くなる。

  6. 4サイクルレシプロエンジンは吸入→圧縮→燃焼→排気というサイクルの繰り返しで回転動力を取り出す。現在の自動車エンジンとしては最もポピュラーなものである。
    もちろん、F-1も4サイクルレシプロエンジンである。と言うより、レギュレーションで定められている。

4-cycle


ってな感じでしたね。
 これ以降の文は前回のコラムを読んでいただいたものとして進めていきますね。

 で、今回のテーマは、「F-1エンジンに要求される性能」ということにしましょうか。

 まず、レース用のエンジンとしてまっ先に思い付く重要な性能はなんでしょうか?
 そうです。「パワー(高出力)」ですね。

 しかし、パワーがあればそれでいいのでしょうか?そうではありませんね。パワーがあっても重ければそのパワーも相殺されてしまうし、すぐに壊れてしまっては(「信頼性」がなければ)せっかく速くてもレースで勝つ事ができません。
 また、「燃費」もある程度良くなければ燃料を多く積まなければならず、ハンディとなりますし、コンパクトでなければ(「搭載性」が良くなければ)シャシー側のレイアウトの自由度が狭まり、結局トータルではハンディとなりかねません。

 このように、レース用(に限った事ではありませんが)のエンジンには多くの性能が望まれており、また、それらの要素は互いに相反するもので、一つを立てれば他方の性能が落ちる、といった関係になっています。

 とは言え、レース用エンジンはやはり「パワー」が最も優先される要素である事は確かです。ここからは、レース用エンジンには上のように多くの要求があるということを念頭に置きながらも、レース用エンジンがどのようにして他の要素と折り合いをつけながら、「パワー」を追求しているのかを見ていく事にいたしましょう。

 エンジンのパワーを上げるためには、どのような方法があるでしょうか?
 エンジンのパワーを発生させているのは、混合気の燃焼による熱エネルギーです。
 ということは、この熱エネルギーが増えれば、必然的にパワーも上がるはずです。ならば、同じ時間に多くの混合気を燃やせれば、より高出力なるはずですね。

 一度に燃やせる混合気の量...これは「排気量」という言葉で表されます。
 排気量とは、シリンダーの内側の断面積とピストンの動く長さの積で表されます。

 ま、そりゃそうですね。ピストンが動く容積分だけ燃やされる混合気が流入されるわけですから、その容積こそが燃やされる混合気の量、ということになります。

bore&stroke
ボアとストローク

 ちなみに、図にあるように、ピストンが往復する際、一番上がった位置を上死点、下がった位置を下死点と呼び、この距離を「ストローク」と呼びます。また、シリンダーの内径を「ボア」と呼びます。

 よって、排気量はこれらの言葉を利用すれば

(排気量)=(ボア/2)2×(円周率)×(ストローク)×(気筒数)

と表す事もできますね。(気筒数については後ほど説明します)
 このボアとストロークの決定というのもエンジンの性能には大きな影響があるのですが、ま、これはもうちょっと後でふれることにします。

 で、一般的にこの排気量が大きければ大きいほど、パワーのあるエンジンということになります。市販車でも、大きく重量のある高級車になるほど、その重さを苦にしないほどのパワーを発生する排気量の大きなエンジンを搭載しています。
 ただもちろん、排気量が大きければ、燃料の消費も多くなります。基本的には、パワーが上がれば燃費も悪くなるものです。とは言え、燃焼の効率を上げれば、それもある程度改善する事ができるでしょう。
 しかしながら、現在のF-1ではこの排気量は最大3000cc(3リットル)に制限されており、どのエンジンもこの数字ギリギリの排気量にしてくるため、排気量で他チームに差をつけることはできません。

 じゃあ、他にどこでパワーを上げればいいのか?
 一番手っ取り早いのは燃やす空気を大量にエンジンに詰め込んでやる方法...いわゆる「過給」が挙げられます。燃える空気の量が増えれば当然発生するパワーも上がる、というわけですね。

 過給方式として実用化されているのは「ターボチャージャー」と「スーパーチャージャー」です。
 このうちスーパーチャージャーはエンジンの発生した回転力を利用して空気を圧縮して送り込む方式です。
 後述のターボと比べ、低い回転域でも過給効果が得られることがメリットですが、駆動ロスが大きいことが欠点となります。

 スーパーチャージャーはF-1のごく初期(1950年代)にアルファロメオらが使用していましたが、1954年に過給エンジンの排気量が750ccに抑えられた事から(一方、自然吸気エンジン(NA)は2500cc)、これらは姿を消しました。

turbo-engine
ターボチャージャーの仕組み

 一方のターボチャージャーはエンジンの排気のエネルギーを利用してタービンを回し、空気を圧縮してエンジンに送り込む方式です。
 ターボの場合は排気ガスが少ない時、つまり低回転域ではタービンの回転も少なくなり、過給効果が下がります。そのため、アクセルを踏んでから実際パワーが出るまで時間差が生じてしまいます。
 これを「ターボラグ」と呼びます。

 しかしながら、ターボチャージャーは本来はそのまま捨てられるはずの排気のエネルギーを利用しているため効率が高く、同じ排気量において大きなパワーアップが可能です。

 とはいえ、前述のように、過給エンジンはF-1では特に大きな排気量の制限が課せられていました。1966年からのレギュレーション(いわゆる3リッター時代)ではNAの半分、1500ccという制限となっていました。
 他のカテゴリー...例えばスポーツカーなどでは過給エンジンの排気量換算は1.4倍となっており、2倍('54〜'60年は3倍以上)となっていたF-1での設定がかなり厳しいものだったと、おわかりいただけるでしょう。
 そのため、長いことF-1では過給エンジンが姿を見せませんでした。

Renault-EF01
ルノーEF01エンジン

 ところが、フランスのルノーがその壁に挑んだのが'77年でした。
 まあ、この詳しい顛末は
"U-N-C-H-I-K-U"の第十八回で述べているので、そちらをご覧いただくとして、その後急速に発達したターボエンジンが、他チームにも搭載されるようになり、2倍の排気量3000cc('87年からは3500cc)を持つNAを打ちのめしたのは御存じの通りです。  

 過給圧の制限のなかった頃には5,6バール(大気圧の5,6倍)もの過給圧によって、1500ccにして1000馬力以上を得ていたそうです。

 しかし、それも'88年まで。
 過給のための大掛かりな補記類が必要で、複雑だったターボエンジンは、莫大な開発資金を必要とされ、チーム間の格差が大きく開く原因となってしまいました。そして、やはりレギュレーションの前にF-1における歴史を閉じる事になったのです。
 ただ、ターボエンジンは、未知の領域も多く、苛酷な開発競争の場であるF-1での開発は、非常に意義深かったのも事実であり、未だに禁止を悔やむ声も多いですね。

induction-box
ラム圧を狙った
インダクションボックス

 話がずいぶん飛びましたが (-_-ゞ、ターボチャージャーなどの過給でなくても、吸気を狭い空間(インダクションボックス)に押し込むことで、大気圧よりは高い圧力に上げてエンジンに空気を押し込もうということは今でも行われています。これは「ラム圧」と言われています。

 さてさて、排気量を上げるのも駄目、過給も駄目。じゃあ、一体今のF-1エンジンはどうやってパワーを上げるのでしょう?

 まずは、吸気・排気効率を上げること。これは吸気・排気バルブ(弁)の大きさをできるだけ大きくすることです。

 しかしながら、一つのバルブがあまりに大きいと、鈍重になり、速い動きができません。そこで、実際にはバルブの数を増やされています。
 今のF-1エンジンでポピュラーなのは、4バルブと言われるタイプで吸気2バルブ、排気2バルブとなっています。
 一時は吸気3バルブ、排気2バルブの5バルブエンジンもフェラーリやヤマハ、ジャッドらが試しましたが、今度は複雑になりすぎ、結局今は4バルブになっています。

 この4バルブも、今のF-1ではスタンダードになってしまいました。バルブの数でももはや勝負することはできません。
 それならば、どこで他チームと差をつけるか。

 そう、「高回転化」。これに尽きてくるのです。
 なるべく多くの燃料を燃やして熱エネルギーを多く得たいのなら、同じ時間内での燃焼の回数を上げれば良い。ならば、回転数を上げて燃焼の回数を増やせば良い、というわけなんです。

 どうしたら高回転にできるか。ここで先程の「ボア」と「ストローク」が登場してきます。

 エンジンの一回転はピストンの一往復に対応しています。
 ピストンの速さが同じ、つまり、爆発の力が同じである時に、回転数をなるべく上げるためにはどうしたら良いでしょう?
 そう、ピストンの動く距離=ストロークを短くすれば良いのです。同じ速さで動くならば、その距離が短いほど、一往復の時間が短くなり、より多く回転させる事ができますね。
 よってレース用エンジンというのはどれもショートストロークエンジンになっています。

 ま、でも開発者に言わせればこの関係は実は逆だそうですね。
 つまり、ピストンスピードが速すぎると摩擦熱が大きくなって焼き付けを起こしてしまうと。なら、同じ回転数でもピストンスピードは遅い方がいい=ショートストロークにする、というわけだそうです。
 ですから、今トップチームに供給するエンジンメーカーの開発者達が血眼になっているのは、潤滑に支障をきたさない程度にピストンスピードを上げれるか、ということだというわけですね。

 そいでもって、同じ排気量の時にはストロークが短くなると、ボアが大きくなります。
 ボアが大きくなるとシリンダーの上面の面積も大きくなり、結果として吸気・排気バルブを大きくでき、吸気・排気の効率も上がると言うことを意味しているわけです。

 もちろん、問題はあります。
 ボアが大きくなるという事は、燃焼室が大きくなる事を意味しています。ということは、一度に均等に混合気を燃やす事が難しくなります。すると、当然せっかくの燃焼によつ熱エネルギーを効率良く取り出す事ができません。

 また、ピストンのサイズが大きくなると、冷却の問題も起こってきて、ノッキング(異常燃焼)が起こりやすくなります。振動や、エンジン自体のサイズも大きくなってしまいますね。

induction-box
ストロークによる
クランクシャフトの長さの違い

 それから、図を見れば分かる通り、ショートストロークの方が必然的にクランクシャフトが短くなるため、テコの原理で、クランクシャフトを回そうとする力=トルクはロングストロークに比べて小さくなってしまいます。

 そのため、ショートストロークの方が高回転ではあるものの、パワーバンドが狭い扱いにくいエンジンになりがちです。

 つまり、このボアとストロークの決定というのはエンジンの性格...高回転重視なのか信頼性重視なのか、振動が大きいのか小さいのか、エンジン自体のサイズなど...を決める非常に重要なものだということなのです。

 さ、ボアとストロークの話も終わったところで。
 実はここまでの話は、簡略化のために、エンジンのシリンダーが一本であるかのようにして話してきました。
 しかし、現実はそうではありません。

 今のF-1エンジンは3リットルです。
 一つのシリンダーでそれを実現しようとすると、なんとペットボトルの2倍の大きさの巨大なシリンダーになってしまいます。
 そうなると、ピストンのサイズも、いくらボアを小さくしたところで、それ相応のサイズになるでしょう。
 もはやバルブのサイズやら、ボア・ストローク比の決定云々の話以前に、それぞれの部品がとてもじゃないが大きすぎて強度・重量ともに問題だらけになってしまいますね。

 そこで、実際のエンジンでは、いくつかのシリンダーを持ち、それらの発生した力をまとめる事で大きな排気量を実現しているのです。
 例えば、シリンダーが4つあれば4気筒エンジン、10つなら10気筒エンジン、というわけです。
 3リッターでも、10気筒にすれば一つのシリンダーでは300cc、缶ジュース程度の大きさに収まってくれますね。

 しかし、またまたこれが奥が深くて、じゃあ、これらの気筒をどう配置するの?という問題が起こってくるのです。ただ10気筒なら10気筒縦に並べたらとんでもなく縦長のエンジンになって、車に積めなくなるし、下手に配置したら、バランスが滅茶苦茶になってしまいます。
 ...ってなわけで、次回はこのエンジンレイアウトのお話になりますぅっ!

Summaries of this issue

  1. レーシングエンジンに最も必要な要素は「パワー」であるが、「搭載性」 、「燃費」、「信頼性」など、非常に多くの要素も兼ね備えていなければ、 勝つ事はできない。

  2. エンジンのパワーを上げるためには、多くの混合気を燃焼させれば良い。

  3. 排気量(シリンダー内面の断面積×ピストンの往復幅)が大きいほど、パワーが出る。F-1では最大3000ccに規定されている

  4. 過給エンジンは、空気を圧縮して押し込む事でより多くの空気を燃やし、 パワーを得ようというものだが、現在F-1では禁止されている。

  5. 吸気・排気の効率を高めるため、現在は1シリンダーあたり吸気2バルブ、 排気2バルブの4バルブが標準である。

  6. ハイパワーを得るために現在最も追求されているのが「高回転化」である。

  7. ピストンの直径をボア、ピストンの往復幅をストロークといい、これらのサイズの決定はエンジンの性格の決定に非常に重要である。

  8. 高回転を追求してレーシングエンジンではショートストロークが基本である。

previous Next

back

back