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2000 Round.12
Hungarian
13th.Aug.2000

Hungary
Hungaroring
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1.ハンガリーGPコースレビュー&ヒストリー

* * * オンガロリンク・サーキット * * *

 東欧初のF-1グランプリとして'86年から開催されるようになったハンガリーGP。舞台は一貫してここオンガロリンクだ。カラフルな最先端マシンが映し出す西欧の華やかな雰囲気は、ハンガリーの人々にとっては大きな衝撃だったという。
 以来今年で15年。幾度となく経済的理由から休止の噂が流れたが、旧東欧圏唯一のGPという意義から(たとえ客の多くが旧西欧圏からの人々であっても...)、その危機を逃れてきた。

 そのオンガロリンク・サーキットの特徴は、前戦ドイツとは打って変わった超低速サーキットである、ということだ。
 4kmに満たない短いコースながら、コーナーは14を数え、ホームストレートはわずかに700mに過ぎない。追い越しポイントも実質上第一コーナーへの突っ込みだけであると言える。
 当然ここで重要なのはエンジンの絶対的出力ではなく、そのドライバビリティと、なによりも優秀なシャシーセットアップである。どのチームもマシンをコースに押さえ付けるべく、モナコGPなみの凄まじい数のフラップをウィングに追加し、低速向けの特殊セッティングを施す。だが、もともとのシャシーの素性が良くなければこれらも生きない。
 また、ハンガリーGPは毎年この酷暑の時期に行われるために、マシンにかかる負担も非常に大きい。その上、路面もスリッピーである。

 よって、ここではチームの資金力・政治力よりも、純粋な技術レベルを反映して結果が出る傾向がある。


* * * 勝率5割のウィリアムズ * * *

 このサーキットで素晴らしい戦績を上げているのが、パトリック・ヘッドが一貫して技術陣の指揮を執るウィリアムズチームだ。
 なんと、14回のハンガリーGPの歴史で8回のポールポジションに、7回の優勝。シャシーの根本的実力を問われるハンガリーだけに、いかに、ウィリアムズチームの技術的基盤が優れているかの何よりの証明であると言える。


* * * 常識を覆すマンセルの追い上げ * * *

 追い越しチャンスが実質一ケ所であるこのハンガリーでは、予選上位に入らなければ優勝はあり得ない。だが、その常識を完全に打ち破って優勝したドライバーがいる。「荒法師」と呼ばれたナイジェル・マンセルだ。

 '89年、マンセルが所属したフェラーリのマシンは、天才ジョン・バーナードの意欲作640。F-1初のセミオートマトランスミッションをはじめ、非常に先進的なパッケージングを備えていた。
 だが、あまりに先進的だったためにトラブルが多く熟成が進まず、セナとプロストを有する無敵のマクラーレン・ホンダ勢になかなか実力で勝負するレベルに達することができなかった。

 ハンガリーGPの予選でもマシンが思ったように走らず、マンセルは屈辱の12番グリッドに留まった。
 しかし、マンセルは大きな手応えを持っていた。前年度のMP4/4で頂点を極めてしまったために、既に技術的レベルの退行が始まっていたマクラーレンのマシンに対し、フェラーリのマシンには潜在的に素性の良さがあると確信していた。
 頭を切り替えたマンセルは決勝のセットアップを徹底的に詰めた。


 このレース、ポールを獲得したのはウィリアムズのパトレーゼ。スタートでも巧妙にセナを抑えてトップをキープする。彼のキャリアの中でも最高と言って良いほどの素晴らしい走りだ。
 一方マンセルも1周目で8番手に上がると、鋭い走りで追い越しポイントが少ないオンガロリンクであることを忘れさせるかのようなパッシングの連続で、レース中盤には彼らの背後にまで迫っていた。

 すると、パトレーゼにトラブルが起きた。小石がラジエターを貫通したのだ。最高のレースを繰り広げていたパトレーゼ、無念のリタイヤ。

 これでトップはセナ。だが、このサーキットではどうにも他のサーキットほど、マクラーレン・ホンダは強さを発揮できない。マンセルは完全にテール・トゥ・ノーズ状態でセナの攻略にかかる。
 そして、もつれるようにコーナーに飛び込んでいった二人の前に周回遅れのヨハンソンが現れる。セナは進路を塞がれ、失速した。見逃さなかったマンセルは11ポジションアップとなるトップポジションに立った。

 だが、セナは堅めのBタイヤで明確な無交換作戦。一方マンセルは柔らかめのCタイヤを選択していた。彼ら二人以外は全員ピットストップを行っている。果たしてこの酷暑の中、マンセルのタイヤは保つのか?
 しかし、こうした心配をよそに、マンセルはファステストラップまで刻んで逃げた。そして、優勝。
 ...これはつまり、マンセルとフェラーリのタイヤの使い方が完璧だったということだ。効率良くタイヤを使える優れたシャシーと、それを完璧に扱いこなせる技量と自信をマンセルが有していたからこそ、常識を覆す素晴らしいレースが実現したのだ。


 '89年ハンガリーGPは、F-1史上に残る素晴らしいレースだったと言って良いだろう。


2.レース・レビュー

* * * 予選 〜 シューマッハに戻った集中力 * * *

 今回の予選は久々にシューマッハの強さが際立った。午前中のフリー走行で圧倒的なトップタイムを叩き出していた彼は、1回目のアタックで素晴らしい集中力を見せて、やはりダントツのタイムを叩き出し、周回数にも余裕を残して悠々とポールポジションを獲得してしまった。
 今年、特に中低速でマクラーレンと互角以上の速さを見せつけるフェラーリF1-2000。それを生かし切る技量と自信。それを、まさにシューマッハが有していたということだ。

 一方マクラーレン、特にハッキネンは苦しんだ。セッション中に大幅なセッティング変更を強いられるなど、オーストリアでのシューマッハのようなドタバタした予選となった。それでもクルサードに続く3番手に滑り込んだのは上出来と言うべきか。

 オンガロリンクに強いウィリアムズ勢は、やはり上位に来た。ラルフはバリッケロを食って4番手、生まれて初めてハンガリーにやってきたバトンも見事なコース習熟を見せて8番手だ。
 対照的に、ホンダエンジンの性能に依存するBARは、ヴィルヌーブの腕を以ってしてもやはり沈んだ。16番手と18番手。図らずも、BARの技術レベルの低さを証明してしまった。


* * * スタート・前半戦 〜 抜群のダッシュを見せたハッキネン * * *

 さて、決勝レース。
 ここハンガリーは路面が非常にスリッピーであるために、レコードラインである外側グリッドよりも、汚れ気味な路面の内側(偶数)グリッドの不利がより大きくなると言われている。
 今年は、どうなるか?

 現在のランキング上位3名が見事にその順番で並んだグリッド。有利な外側がシューマッハとハッキネン、そして内側がクルサード。

 グリーンシグナル!



start


 やはり内側のクルサードはうまく加速できない!
 シューマッハの加速は順当だったが、それ以上にハッキネンの加速が素晴らしい。加速の遅れたクルサードの前に出るまでシューマッハの後ろにぴったりとくっついて加速した後、鋭くイン側に飛び出したハッキネンは、1コーナーを見事に制してトップに躍り出た。



 まるでトラクションコントロールがついているのでは?と疑いたくなるようなダッシュだが、クルサードが失敗しているだけにそれは説得力を持たない。純粋に、ハッキネンの集中力が優れていたと言うべきであろう。

 さて、そのオープニングラップ、後方集団でアクシデントが起こる。シケインで15番グリッドのデ・ラ・ロサの左リヤタイヤと16番グリッドのヴィルヌーブのフロントウィングが接触し、パーツが舞った。
 ここのところ、ポイント獲得常連となりつつあった二人は早々に修理のためピットインを強いられ、上位進出が不可能となってしまった。


 序盤戦、ニュータイヤを履いたハッキネンのバランスが悪く、前輪にユーズドタイヤを使っているシューマッハがテール・トゥ・ノーズでついていく。クルサードもそれに続き、ランキング同様のトップ3の超接近戦である。

 この展開が続くかと思われたのも束の間。バランスを取り戻したハッキネンは急激にペースを上げると、あっという間にシューマッハとの差を広げ、独走態勢に持ち込んでいったのであった。
 予選はドタバタしたハッキネンだったが、彼は決勝に向けて入念なセットアップを練っていたというわけだ。


* * * 中盤戦 〜 恐るべしマクラーレンMP4-15 * * *

 快調に飛ばすハッキネン。シューマッハとの差を十数秒にまで広げ、周回遅れも順調にかわしていく。
 そんな中、2位シューマッハが早めにピットインに動いた。

 多少差を拡げていたとは言え、後ろにクルサードがいる状況でピットインせざるを得なくなったということは、スタート時の燃料が少なかったからであると考えられる。...にも関わらず、そのシューマッハを全く寄せつけなかったということは、ハッキネンのマシンが素晴らしく決まっているということだろうか?
 予選からは想像もつかぬ展開である。

 各車一回目のピットインを終えると、ハッキネンはまるで危な気なくトップをキープした一方、ピットタイミングを遅らせたクルサードは再びシューマッハのすぐ背後に迫っていた。そこから差を置いての後方ではピット作戦でバリッケロがラルフの前に出て4位に上昇することに成功していた。



Schumacher vs Coulthard


 シューマッハとクルサードのテール・トゥ・ノーズが続く。シューマッハは明らかにタイヤが辛そうだ。
 しかし、ここはオンガロリンク。クルサードもなかなか抜くには至らない。また、コースが短いだけに、周回遅れが次々に現れるため、シューマッハになかなか接近しきれないのだ。



 そして二度目のピットタイミングが迫りつつあった。


* * * 後半戦・ゴール 〜 ハッキネンの完勝・守り切ったシューマッハ * * *

 スタート時に少なめの燃料で、一回目のストップも短かめだったシューマッハは、二度目のピットストップもやはり、マクラーレンの2台よりも早めにせざるを得なかった。  ところが、まだ燃料に余裕があるはずのクルサードはなぜかその翌周にピットイン。微妙なタイミングであったが、ピットアウト後、わずかに1コーナーでシューマッハに鼻先を抑えられて、結局順位交代はならなかった。
 前戦に続き、またしてもマクラーレンの不可解な作戦ミスが出てしまったようだ。

 一方のハッキネンは絶対的なマージンを持ってピットストップを終え、余裕でトップで返り咲いた。


 この3スティント目に入っても、相変わらずシューマッハとクルサードの接近戦が続く。それだけ、シューマッハの走りは苦しく、クルサードの方が余裕を持っているようだ。現に、シューマッハのペースは周回ごとで安定していない。
 もし順位が入れ代わればシューマッハとクルサードはポイントで並ぶ。非常に重要な戦いだ。シューマッハは意地でも抑え込まなければならなかったのだ。

 だが、ここではフランスGPのような逆転劇は起こらなかった。結局シューマッハはクルサードを抑え続け、価値ある2位を得た。マシンの状態からすれば上出来であろう。



Mika wins!


 一方、マクラーレン勢はクルサードの不可解なピット作戦失敗はあったが、ハッキネンは完璧な勝利でドライバーズランキングのトップに踊り出た上、チームとしても1-3フィニッシュでとうとうコンストラクターズポイントのトップに立った。このレースでのMP4-15は完璧なマシンだった。



 4位はバリッケロ、5位ラルフ、6位フレンツェンと、入賞圏内はほとんど予選順位から淡々と戦った印象だ。残念ながら、抜きにくいサーキットならではの、パレード的レースとなってしまった感が否めない。


3.NOBILES Eye


 今回際立ったのはマクラーレンのマシンの素晴らしさだ。燃料が多くても変わらないペース、タイヤに優しく、なおかつ性能をしっかりと引き出すことのできる素性の良さ。フランスGPでも際立ったことだが、すぐにたれてしまうフェラーリのタイヤに比べ、マクラーレンは長く良いグリッドレベルを保つことができるのだ。
 予選一発の速さでは勝っても、フェラーリに付け入る隙はなかった。

 逆を言えば、それにも関わらずシューマッハが2位をキープできたことは収穫であったとも言える。3戦連続リタイヤで追い込まれた彼にとっては、その流れを断ち切る意味でも非常に意義深かった。

 しかしながら、やはりまだ流れはマクラーレンにある。特にここ数戦のハッキネンは完全に過去2年間の強さを取り戻してしまった。あのスタートダッシュ、序盤の差を広げる走りは貫禄さえ感じさせた。

 ついにポイントリーダーを明け渡してしまったシューマッハだが、まだまだ厳しい戦いが続くだろう。


 さて、今回技術面で目立ったのは、マクラーレンが先鞭をつけた煙突状のラジエター排気口である。フランスGPのフリー走行で試していたフェラーリだけでなく、ウィリアムズも決勝レースでこれを装着していた。
 ますます空力上の要求から狭くなるサイドポンツーン内のスペースから、厳しくなっているラジエターエアの処理であるが、この暑いハンガリーで2チームが模倣した煙突、さすが天才アドリアン・ニューウィーが導入したアイディアだけあって、大きな効果があるのだろう。

 しかし、それにしても、ここまで完璧に模倣されると、やはり各マシンのオリジナリティが失われつつあるのか、と少し悲しい気分になってくるものだ。


 さて、なにはともあれ、今年のチャンピオンシップも残り僅か5戦である。そんな中、素晴らしい完成度を発揮し始めたマクラーレンがトップに立った。果たしてこの流れは止まらないのであろうか?
 次戦ベルギーGPは屈指の名サーキット、スパ・フランコルシャンで8月27日に行われる。




Result
1 M.Hakkinen McLaren Mercedes 1h45'33"869
2 M.Schumacher Ferrari +00'07"912
3 D.Coulthard McLaren Mercedes +00'08"452
4 R.Barrichello Ferrari +00'44"157
5 R.Schumacher Williams BMW +00'50"437
6 H-H.Frentzen Jordan Mugen-Honda +01'08"099
7 J.Trulli Jordan Mugen-Honda -1lap
8 E.Irvine Jaguar -1lap
9 J.Button Williams BMW -1lap
10 M.Salo Sauber Petronas -1lap
11 A.Wurz Benetton Playlife -1lap
12 J.Villeneuve BAR Honda -2laps
13 J.Verstappen Arrows Supertec -2laps
14 R.Zonta BAR Honda -2laps
15 M.Gene Minardi Fondmetal -3laps
16 P.De La Rosa Arrows Supertec -4laps
- DNF -

G.Mazzacane Minardi Fondmetal 68laps (Engine)

J.Herbert Jaguar 67laps (Transmission)

P.Diniz Sauber Petronas 62lap (Engine)

G.Fisichella Benetton Playlife 31laps (Brake)

N.Heidfeld Prost Peugeot 22laps (Electoric)

J.Alesi Prost Peugeot 11laps (Suspension)

Fastest Lap : M.Hakkinen (McLaren Mercedes) 1'20.028

Drivers
Chanpionship
Constructors
Chanpionship
1 M.Hakkinen 64 1 McLaren Mercedes 112
2 M.Schumacher 62 2 Ferrari 111
3 D.Coulthard 58 3 Williams BMW 24
4 R.Barrichello 49 4 Benetton Playlife 18
5 G.Fisichella 18 5 Jordan Mugen-Honda 12
6 R.Schumacher 16 6 BAR Honda 12
7 J.Villeneuve 11 7 Sauber Petronas 6
8 J.Button 8 8 Arrows Supertec 4
9 H-H. Frentzen 6 9 Jaguar 3
10 J.Trulli 6
11 M.Salo 6
12 E.Irvine 3
13 J.Verstappen 2
14 P.De La Rosa 2
15 R.Zonta 1


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