1.ハンガリーGPコースレビュー&ヒストリー
* * * オンガロリンク・サーキット * * *
東欧初のF-1グランプリとして'86年から開催されるようになったハンガリーGP。舞台は一貫してここオンガロリンクだ。カラフルな最先端マシンが映し出す西欧の華やかな雰囲気は、ハンガリーの人々にとっては大きな衝撃だったという。
以来今年で15年。幾度となく経済的理由から休止の噂が流れたが、旧東欧圏唯一のGPという意義から(たとえ客の多くが旧西欧圏からの人々であっても...)、その危機を逃れてきた。
そのオンガロリンク・サーキットの特徴は、前戦ドイツとは打って変わった超低速サーキットである、ということだ。
4kmに満たない短いコースながら、コーナーは14を数え、ホームストレートはわずかに700mに過ぎない。追い越しポイントも実質上第一コーナーへの突っ込みだけであると言える。
当然ここで重要なのはエンジンの絶対的出力ではなく、そのドライバビリティと、なによりも優秀なシャシーセットアップである。どのチームもマシンをコースに押さえ付けるべく、モナコGPなみの凄まじい数のフラップをウィングに追加し、低速向けの特殊セッティングを施す。だが、もともとのシャシーの素性が良くなければこれらも生きない。
また、ハンガリーGPは毎年この酷暑の時期に行われるために、マシンにかかる負担も非常に大きい。その上、路面もスリッピーである。
よって、ここではチームの資金力・政治力よりも、純粋な技術レベルを反映して結果が出る傾向がある。
* * * 勝率5割のウィリアムズ * * *
このサーキットで素晴らしい戦績を上げているのが、パトリック・ヘッドが一貫して技術陣の指揮を執るウィリアムズチームだ。
なんと、14回のハンガリーGPの歴史で8回のポールポジションに、7回の優勝。シャシーの根本的実力を問われるハンガリーだけに、いかに、ウィリアムズチームの技術的基盤が優れているかの何よりの証明であると言える。
* * * 常識を覆すマンセルの追い上げ * * *
追い越しチャンスが実質一ケ所であるこのハンガリーでは、予選上位に入らなければ優勝はあり得ない。だが、その常識を完全に打ち破って優勝したドライバーがいる。「荒法師」と呼ばれたナイジェル・マンセルだ。
'89年、マンセルが所属したフェラーリのマシンは、天才ジョン・バーナードの意欲作640。F-1初のセミオートマトランスミッションをはじめ、非常に先進的なパッケージングを備えていた。
だが、あまりに先進的だったためにトラブルが多く熟成が進まず、セナとプロストを有する無敵のマクラーレン・ホンダ勢になかなか実力で勝負するレベルに達することができなかった。
ハンガリーGPの予選でもマシンが思ったように走らず、マンセルは屈辱の12番グリッドに留まった。
しかし、マンセルは大きな手応えを持っていた。前年度のMP4/4で頂点を極めてしまったために、既に技術的レベルの退行が始まっていたマクラーレンのマシンに対し、フェラーリのマシンには潜在的に素性の良さがあると確信していた。
頭を切り替えたマンセルは決勝のセットアップを徹底的に詰めた。
このレース、ポールを獲得したのはウィリアムズのパトレーゼ。スタートでも巧妙にセナを抑えてトップをキープする。彼のキャリアの中でも最高と言って良いほどの素晴らしい走りだ。
一方マンセルも1周目で8番手に上がると、鋭い走りで追い越しポイントが少ないオンガロリンクであることを忘れさせるかのようなパッシングの連続で、レース中盤には彼らの背後にまで迫っていた。
すると、パトレーゼにトラブルが起きた。小石がラジエターを貫通したのだ。最高のレースを繰り広げていたパトレーゼ、無念のリタイヤ。
これでトップはセナ。だが、このサーキットではどうにも他のサーキットほど、マクラーレン・ホンダは強さを発揮できない。マンセルは完全にテール・トゥ・ノーズ状態でセナの攻略にかかる。
そして、もつれるようにコーナーに飛び込んでいった二人の前に周回遅れのヨハンソンが現れる。セナは進路を塞がれ、失速した。見逃さなかったマンセルは11ポジションアップとなるトップポジションに立った。
だが、セナは堅めのBタイヤで明確な無交換作戦。一方マンセルは柔らかめのCタイヤを選択していた。彼ら二人以外は全員ピットストップを行っている。果たしてこの酷暑の中、マンセルのタイヤは保つのか?
しかし、こうした心配をよそに、マンセルはファステストラップまで刻んで逃げた。そして、優勝。
...これはつまり、マンセルとフェラーリのタイヤの使い方が完璧だったということだ。効率良くタイヤを使える優れたシャシーと、それを完璧に扱いこなせる技量と自信をマンセルが有していたからこそ、常識を覆す素晴らしいレースが実現したのだ。
'89年ハンガリーGPは、F-1史上に残る素晴らしいレースだったと言って良いだろう。
2.レース・レビュー
* * * 予選 〜 シューマッハに戻った集中力 * * *
今回の予選は久々にシューマッハの強さが際立った。午前中のフリー走行で圧倒的なトップタイムを叩き出していた彼は、1回目のアタックで素晴らしい集中力を見せて、やはりダントツのタイムを叩き出し、周回数にも余裕を残して悠々とポールポジションを獲得してしまった。
今年、特に中低速でマクラーレンと互角以上の速さを見せつけるフェラーリF1-2000。それを生かし切る技量と自信。それを、まさにシューマッハが有していたということだ。
一方マクラーレン、特にハッキネンは苦しんだ。セッション中に大幅なセッティング変更を強いられるなど、オーストリアでのシューマッハのようなドタバタした予選となった。それでもクルサードに続く3番手に滑り込んだのは上出来と言うべきか。
オンガロリンクに強いウィリアムズ勢は、やはり上位に来た。ラルフはバリッケロを食って4番手、生まれて初めてハンガリーにやってきたバトンも見事なコース習熟を見せて8番手だ。
対照的に、ホンダエンジンの性能に依存するBARは、ヴィルヌーブの腕を以ってしてもやはり沈んだ。16番手と18番手。図らずも、BARの技術レベルの低さを証明してしまった。
* * * スタート・前半戦 〜 抜群のダッシュを見せたハッキネン * * *
さて、決勝レース。
ここハンガリーは路面が非常にスリッピーであるために、レコードラインである外側グリッドよりも、汚れ気味な路面の内側(偶数)グリッドの不利がより大きくなると言われている。
今年は、どうなるか?
現在のランキング上位3名が見事にその順番で並んだグリッド。有利な外側がシューマッハとハッキネン、そして内側がクルサード。
グリーンシグナル!
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